研究実績の概要 |
原子力緊急事態において放射性物質のモニタリングは不可欠なものである。放射性ストロンチウム (Sr-89,90) は先の福島第一原子力発電所事故において、汚染水に含まれたものが発電所港湾に漏洩し、海洋へ放出が続いている。Sr-90の定量はβ線測定によらねばならず、妨害となるβ線放出核種を除くため精製分離が不可欠である。このため調査結果の公表が1-2か月遅れとなっている。分析手法の迅速化には課題が多く、対応が未だなされていない。 本研究では、迅速分析法の開発を目的とし、平成24年度には海水を対象に化学分離法と測定法を確立するため、リン酸塩沈殿法におけるクエン酸の効果及び固相抽出法の適用について検討した。平成25年度には液体シンチレーション測定による定量法を確立するため、Sr-85,90及びY-88,90トレーサを用いて適用条件について検討した。平成26年度は確立された化学分離法と測定法について、緊急時に対応できる迅速定量法としてSr-89の定量にも対応出来るようにSr-89及びY-90の定量法も検討した。また、海水以外の試料への拡張性の検討及び福島県内で採取した海水について実証試験を実施した。 これまでの検討の結果、海水に適用できないとされてきた固相抽出ディスクの適用が可能となり、1週間かかっていた化学分離の時間を3.5時間に短縮することができた。また、液体シンチレーション測定において抽出シンチレーターの使用によりSr-89+Sr-90の直接測定を可能とし、定量性を改善した。これにより、測定を含めた分析時間を1ヶ月から1日程度に短縮できた。ただし、化学回収率、天然の妨害核種、他の試料への拡張性については課題が残った。なお、これらの検討結果は、放射化学討論会及び環境放射能研究会において発表し、要旨集及びProceedingsとして公表した。
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