研究課題/領域番号 |
24550075
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
稲毛 正彦 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (20176407)
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研究分担者 |
高木 秀夫 名古屋大学, 物質科学国際研究センター, 准教授 (70242807)
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キーワード | 金属錯体化学 / 人工光合成 / ポルフィリン / 電子移動反応 |
研究概要 |
申請者はこれまでにレーザー分光などの各種分光法を駆使して、金属ポルフィリン錯体の配位子置換反応や光化学反応、電子移動反応などの研究を行ってきた。そして、分子構造や電子状態の観点から、ポルフィリン錯体の反応性を支配する要因を明らかにしてきた。このような研究と通して、金属ポルフィリン錯体と共存する遷移金属イオンとの相互作用によって、前者の励起状態の性質が大きく影響を受けることを見出した。本研究の目的は、これらの知見を基盤としてさまざまな電子供与性または電子受容性分子を結合させた二成分系の電子移動反応の反応性や蛍光をはじめとする励起状態の特性を明らかにするとともに、光誘起電子移動反応の反応性、および、電荷移動状態の特性を明らかにすることである。 用いた化合物は、周辺部に2,2’-ビピリジンを結合した亜鉛(II)ポルフィリン錯体、および、周辺部にフェロセンを結合した亜鉛(II)ポルフィリン錯体である。特に、前者の錯体を銅(II)イオン共存下で光励起することで分子内電子移動反応を起こすことを見出したが、そのポルフィリン錯体複合系の励起状態の性質を蛍光スペクトル、過渡吸収スペクトルを利用して調べ、分子内電子移動反応により生成する長寿命の電荷分離状態の生成を確認した。この分子内電子移動反応の量子収率は0.8程度の大きな値であり、極めて効率的に光誘起電子移動反応が起きることを明らかにした。また、ポルフィリン錯体と2,2’-ビピリジン部分を架橋する原子団の長さを変化させ、電子移動中心の距離と電子移動反応の反応性を調べ、分子構造が電荷分離状態の寿命に大きく影響を及ぼしていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、平成24年度において達成した光誘起電荷分離状態の生成効率や逆電子移動速度の評価に基づいて、構造活性相関の観点から研究を行った。まず、亜鉛(II)ポルフィリン錯体の周辺部に2,2’-ビピリジンが結合した錯体に関して、架橋部分にメチレン基を挿入することによりポルフィリンと2,2’-ビピリジンの距離を伸ばした分子を合成し、電荷移動中心間の空間的距離と光誘起反応の特性の関連を調べた。その結果、電荷分離状態の生成効率はほとんど影響を受けないこと、および、電荷分離状態の寿命が約14倍に伸びることを見出した。また、これらの逆電子移動反応の反応速度の温度依存性から反応の活性化パラメーターを見積もったところ、電荷移動中心間の空間的距離が伸びるにつれて活性化エンタルピーが増大することを見出した。このことは光誘起電子移動反応により生成する電荷分離状態の長寿命化を達成するための分子設計の指針となり、今後の複合系合成を展開する上で重要な知見となるものである。また、電子受容性および電子供与性ユニットとしてフェロセンやルテニウム(II)錯体、白金(II)錯体などの金属錯体を結合した複合系の合成を行い、その光誘起電子移動反応の可能性について調べた。しかし、現時点では2,2’-ビピリジン結合系ほどの効率的な光誘起電子移動反応は見出せていない。特にフェロセンは電子供与体として働きうると考えられるので、引き続きその複合系の光誘起電子移動反応を調べていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、平成25年度までに達成した光誘起電荷分離状態の生成効率や逆電子移動速度の評価に基づいて、引き続き構造活性相関の観点から研究を行う。まず、周辺部に2,2’-ビピリジンが結合した亜鉛(II)ポルフィリン錯体の反応系について、架橋原子団の炭素数を系統的に変化させた分子系を構築し、電荷移動中心間の空間的距離と光誘起反応の特性を調べる。電子供与体、電子受容体は同一であり、両者の空間的距離が異なる分子系について、その電子移動反応の反応性と分子構造の相関を明らかにするとともに、現時点で達成されている電荷分離状態の寿命(20 マイクロ秒)のさらなる長寿命化を試みる。また、フェロセンなどの電子供与性錯体を結合したポルフィリン錯体複合系の合成を引き続き行い、それらの複合系の光化学的挙動と酸化還元特性を調べ、光誘起電子移動過程のダイナミックスを明らかにする。また、二成分系を拡張して、ポルフィリン錯体に電子供与性および電子受容性錯体を結合させた三成分系の構築を検討する。この化合物では光誘起電子移動反応により、末端の金属錯体に正電荷と負電荷が局在化した長寿命の電荷分離状態が達成できるものと期待される。その反応性を調べ、電荷分離状態の生成効率と寿命などの評価を行う。このような反応系の電子移動反応は光合成で達成されている電子移動と基本的に同一であり、本系ではタンパク質や生体膜のような特殊な化学環境を用いることなく人工的に光合成を模倣し、光エネルギーの変換を行おうとするものである。 研究体制については、平成25年度に引き続いて、錯体の合成は稲毛が行い、電子状態と反応性の評価は稲毛と高木が協力して行う。
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