研究実績の概要 |
ヒドラゾン化合物のアミドのN原子上に結合しているプロトンの酸性度は,隣接するイミンのN原子による金属イオンへの配位にともなって大きく増大する。この点に着目し,金属に配位したヒドラゾン化合物上の可逆なプロトンの付加・解離およびこれと連動した酸化還元が外部刺激により発現するクロミック錯体の創出を,本研究の目的とした。 平成24年度は,主にPd(II), Pt(II)錯体を中心にトリボクロミズム,サーモクロミズム,ベイポクロミズムの発現を検討し,平成25年度は,これに加えてCu(I), Cu(II) またRu(II), Ru(III)錯体について,プロトンの付加・解離と連動した中心金属イオンの酸化・還元を検討した。平成26年度は,さらに Ag(I), Au(I)錯体についても,すりつぶしや加熱,光照射にともなう固相における発光性の変化を検討した。 いずれの錯体も,溶液中で酸・塩基を添加すれば,ヒドラゾン配位子上でプロトンの付加・解離を発現するが, Pt(II)錯体では,結晶のすりつぶしと加熱により塩化水素ガスの脱離をともなうプロトン解離が固相で発現し,顕著な錯体の色変化が観測された。また,Pd(II)錯体では,プロトンの付加・解離とともにヒドラゾン配位子の配位様式の変換が,溶液中および固相で発現した。Cu(I)-ヒドラゾン錯体には様々な色を示す多様な配位構造が認められ,配位構造の変換と,Cu(I)⇒Cu(II)の酸化が,溶液中また固相中で確認された。予想されたように,固相で発光性を示すAg(I), Au(I)-ヒドラゾン錯体が単離された。プロトンの付加・解離をともなう発光性の変化だけでなく,Ag(I)錯体では光照射によりヒドラゾン配位子の異性化をともなう色変化,発光色変化が固相で発現した。 以上の研究成果を国内外の様々な学会で発表し,現在執筆中のものも含め,国際的な学術雑誌へ投稿した。
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