研究実績の概要 |
本研究では酵素とその活性中心近傍や疎水性空間へ特異的に結合する小分子リガンドの作用機序に着目して、光増感剤を基体とした酵素-リガンド複合体の構築と、その多段階的な光誘起電子移動反応システムの開発と安定なタンパク質ラジカル中間体の生成を目的とする。具体的には、加水分解酵素キモトリプシン(CHT)を選択し、その活性中心への化学修飾によって酵素複合体を構築する。さらに電子アクセプターの添加によって、光エネルギーを利用した生体分子の多段階光電子・エネルギー移動反応システムについて詳細に議論し、新規機能化を試みる。本研究では、光増感作用を示す、5, 10, 15, 20-テトラフェニルポルフィリン亜鉛錯体(ZnTPP)、あるいはトリス(2, 2’-ビピリジン)ルテニウム錯体(Ru(bpy)3)に着目した。すなわち、CHTの活性中心のセリン残基に”不可逆に”導入し得る、ベンゼンスルホニルフルオリド基を有するZnTPP型錯体、Ru(bpy)3型錯体を開発することを試みた。さらに強発光性のRu(bpy)3型錯体の開発も試みた。 今年度の成果として、Ru(bpy)3型錯体については、CHT複合体にメチルビオロゲン(MV2+)のような電子アクセプターを共存させ、多段階光誘起電子移動反応系を構築した。ルテニウム錯体の光励起とMV2+への電子移動により生成する酸化種Ru(III)錯体は、CHT活性中心近傍の芳香族アミノ酸(Tyr)の電子引き抜き反応を行うことが、時間分解分光測定から分かり、当初の研究機関全体の目的は部分的であるが達成された。また、新たなRu(bpy)3型錯体の候補として、1,10-フェナントロリン誘導体を配位子に含む種々のルテニウム錯体を合成し、その構造、発光特性、励起状態のエネルギーを、理論的、実験的に検証した。これらの結果については、学術論文および学会発表で公表した。
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