選択的な酸素四電子還元反応に本質的な金属酵素の触媒活性点の分子機構を解明すべく、優れた反応性を示す生体模倣分子触媒の反応機構について分光学および計算化学を併用し解析した。昨年度までにマルチ銅酵素の三核銅中心を規範として合理的に分子設計した新規多核銅錯体を開発し、その電気化学的酸素還元反応性の解析と酸素活性化反応機構について洞察を得るべく反応中間体の分光学的解析に成功している。今年度は、分光学により明らかにした反応中間体の分子構造と反応性の相関について洞察を得るべく、量子化学計算により酸素活性化機構について考察した。新規に開発した多核銅錯体において、多核銅酵素様に、タイプIII銅およびタイプII銅を含む活性サイトで酸素が協同的に結合し活性化されうることを明らかにした。 また多核銅酵素におけるタイプII銅およびヘム鉄-銅二核中心をもつシトクロムc酸化酵素(CcO)における銅サイト(CuB)の分子機構に関する考察するために、CcO酸素結合サイトとして機能するヘム鉄の酸素還元反応の分子機構について検討した。量子化学計算による酸素活性化反応中に含まれる反応中間体の分子構造の最適化と、ボルンハーバーサイクルに基づき熱力学的諸量を解析し、酸化還元電位および活性酸素付加体のpKaについて検討した。金属活性中心に結合した活性酸素種と水素結合供与基との相互作用により酸素還元電位を支配する反応ステップに要する自由エネルギーが減少することを明らかにした。したがって、マルチ銅酵素モデル錯体においても水素結合を提供しプロトン伝達を媒介する置換基を導入することが重要であることが示唆され、次世代分子触媒開発に向けた分子設計と合成法について検討した。
|