研究課題/領域番号 |
24550086
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
石川 英里 中部大学, 工学部, 准教授 (90323831)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ポリ酸 / 電気伝導性 / 光化学反応 |
研究概要 |
alpha-ケギン型[PMo12O40]3-から頂点共有する3個のMoサイトが脱離して欠損部分に3個の水分子が直接配位した alpha-A Na3[PMo9O31(H2O)3]・13H2Oのプロトン伝導の機構を明らかにした。alpha-A Na3[PMo9O31(H2O)3]・13H2Oは50℃で最高値の1.3×10-3 S・cm-1を示す。しかし伝導度は変則的な温度依存性を示し、50℃以上では伝導性は低下するものの100℃以上で伝導性は向上し400 ℃で2.8×10-4 S・cm-1まで復活した。alpha-A Na3[PMo9O31(H2O)3]・13H2Oの構造の熱安定性を検討したところ、75℃以上でアニオン構造がalpha-[PMo12O40]3-へ変化することが確認された。alpha-A Na3[PMo9O31(H2O)3]・13H2Oの結晶格子中、c軸方向に結晶水とアニオン骨格の酸素原子で構成されるチャネル構造が存在する。50℃以下で観測された伝導性はalpha-A [PMo9O31(H2O)3]3-骨格内のアニオンに直接配位した水分子からH+が脱離してキャリアとなり、チャネル構造中の酸素原子を介して伝導するGrotthus機構が主のプロトン伝導であると考えた。75℃以上ではアニオン構造がalpha-[PMo12O40]3-へ変化するが、結晶格子内の酸素原子によるチャネル構造は保持されて、これを介したプロトン伝導が観測されたと考察した。骨格内に希土類金属を取り込み、水分子が希土類金属を介して直接骨格に配位しているepsilon-[PMo12O36(OH)4{La(H2O)4}4]Br5・16H2Oの電気伝導性に関してもその機構を検討し、骨格に配位している水分子がプロトン伝導に大きく関与していることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者がこれまでの研究で電気伝導性を見出してきたalpha-A Na3[PMo9O31(H2O)3]・13H2Oとepsilon-[PMo12O36(OH)4{La(H2O)4}4]Br5・16H2Oに関してその電気伝導性のメカニズムを明らかにした。いずれの場合も結晶水よりもポリ酸骨格に直接配位している水分子がプロトン伝導に大きな役割を果たすこと、高温での伝導性の低下はポリ酸骨格が高温で不安定になることや直接骨格に配位していた水分子が外れるためであることが確認された。ここで得られた知見はポリ酸のプロトン伝導性の向上に骨格に親水性の高い希土類金属を取り込ませることが有効であることを支持するもので重要な知見となった。現在、pH 3~6の条件下でのポリモリブデン酸の光誘起自己集合化反応をコントロールし、希土類金属としてLa3+ を取り込んだ混合原子価ポリモリブデン酸の合成を進めている。現時点ではまだ生成物の単離に成功していないが、等温滴下型マイクロカロリーメトリーやESI-MSのデータからLa3+ が配位したポリモリブデン酸が形成されている可能性が高い反応系を見出すことに成功しており、それぞれの単離と結晶化を目指して奮闘中である。このように本研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度の研究で、pH3~6の条件下でのポリモリブデン酸の光誘起自己集合化反応をコントロールすることで、希土類金属としてLa3+ を取り込んだ混合原子価ポリモリブデン酸が形成されることが明らかになった。形成するポリモリブデン酸はpHによって変化することも確認されたので、これらを粉末の状態でも単離してそれぞれの固体状態での電気伝導性を検討する。交流インピーダンス測定による無加湿条件下、加湿条件下での電気伝導性の温度依存性の評価、反応機構の検討に必要な固体NMR測定(既存装置利用)などは所属大学で行うが、燃料電池の固体電解質としての発電特性の検討など、より実用的な評価を行うための測定は燃料電池の開発を行っている名古屋市工業研究場の宮田康史氏に依頼する。また現在、電気伝導性評価に用いているインピーダンスメーターでは測定限界の値に近い、高いプロトン伝導性を持つポリ酸もあり、より高い電気伝導性が評価できる交流インピーダンス測定システムを申請した。またLa3+ 以外の希土類金属に関しても同様に混合原子価状態のポリモリブデン酸の合成を試み、伝導性の違いを検討してより高いプロトン伝導性を示すポリ酸の合成を目指す。ポリ酸の電気伝導性の伝導機構を詳細に考察するためにはその結晶構造を明らかにすることは必須である。そのため伝導性の評価と同時にこれらの結晶化も継続して試み、単結晶X線構造解析によってその構造の詳細を明らかにすることを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年10月に研究代表者である石川が出産したために平成24年度に開催された学会に参加することができず、そのための旅費や参加登録費として考えていた研究費分を次年度に繰り越した。体調も安定していたことから妊娠出産による研究の中断手続きは行わなかった。実際に出産直前まで産休を取らずに研究を続けることができ、育児休暇中もメールや電話で研究室の学生と連絡を取りながら本研究を進めることができた。すでに育児休暇も終了し、平成25年4月1日より通常勤務に戻っている。平成25年度の研究費使用計画では備品としては当初予定していた通り、より高い電気伝導性が評価できる交流インピーダンス測定システムを申請する。平成24年度から繰り越した199,000円は当初の予定よりも増額が必要と考えられる平成25年度の学会参加の費用と消耗品費、その他(元素分析費や論文投稿にかかる費用)へ振り分ける。
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