研究課題/領域番号 |
24550086
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
石川 英里 中部大学, 工学部, 准教授 (90323831)
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キーワード | ポリ酸 / 電気伝導性 / 希土類金属 / 光化学反応 |
研究概要 |
これまでにalpha-Keggin構造のAタイプ3欠損構造を持つNa3[PMo9O31(H2O)3]・13H2O(PMo9)の固体状態における電気伝導性をインピーダンス測定によって評価してきたが、その温度依存性は不規則で、無加湿状態においてPMo9は50℃で最も高い1.3×10-3 S・cm-1の伝導性を示すものの75℃以上で完全なalpha-Keggin構造に構造変化するために伝導性は100℃で6.2×10-6 S・cm-1 まで低下した。より高温での電気伝導性の向上を目指し、PMo9とランタン化合物(La)を固体状態で混合してその電気伝導の温度依存性を評価した。質量比PMo9:La= 8.5:1.5で混合した場合、混合試料の電気伝導性は75℃で1.1×10-3 S・cm-1、100℃で2.1×10-4 S・cm-1を示し、PMo9のみのサンプルよりも高温で電気伝導性を向上させることが明らかとなった。インピーダンス測定後のサンプルのIRスペクトルを測定したところ、混合試料では150℃の測定後でもPMo9の骨格が保持されていることが確認された。質量比PMo9:La= 9.0:1.0で混合した試料や質量比PMo9:La= 7.0:3.0で混合した試料に関しても同様に電気伝導性の温度依存性ついて検討したが、いずれも1.3×10-3 S・cm-1を超える伝導性は得られなかったものの75℃以上の高温ではPMo9のみのサンプルよりも高い電気伝導性を示した。 またモリブデン酸イオンの光化学反応を用いて電気伝導性の向上を目指した希土類金属を取り込んだ混合原子価ポリモリブデン酸イオンの合成と結晶化に成功し、単結晶X線構造解析を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにalpha-A Na3[PMo9O31(H2O)3]・13H2O(PMo9)やepsilon-[PMo12O36(OH)4{La(H2O)4}4]Br5・16H2Oが電気伝導性を示すことを見出し、これらの電気伝導性は高温ではポリ酸骨格が変化するために著しく低下することや、水分子と親和性の高い希土類金属イオンを骨格に取り込んだポリ酸は電気伝導性が向上することを明らかにしてきた。これらの知見を基にPMo9とランタン化合物(La)を固体状態で混合して高温での電気伝導性を向上させる発想に至り、実際に75℃以上の高温ではPMo9のみのサンプルよりも高い電気伝導性を示すことが確認された。また弱酸性条件下でのポリモリブデン酸イオンの光誘起自己集合化反応をコントロールすることによって、希土類金属としてランタンやイットリウムなどを取り込んだ混合原子価ポリモリブデン酸イオンの合成と結晶化に成功し、単結晶X線構造解析を試みている。現時点では十分な解析結果が得られていないが、単離に成功しているので今後、これらの電気伝導性も評価していきたい。このように研究はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までの研究でalpha- A Na3[PMo9O31(H2O)3]・13H2O(PMo9)とランタン化合物(La)を固体状態で混合することによって、高温でPMo9の構造が安定して電気伝導性が向上することが明らかとなった。そこで本年度はPMo9とLaの最適な混合比を求め、無加湿状態や加湿状態での電気伝導度の温度依存性を評価する。またepsilon-[PMo12O36(OH)4{La(H2O)4}4]Br5・16H2O(PMo12La4)に関しても同様の効果が期待されることからLaを固体状態で混合し、その電気伝導度の温度依存性を求める。合わせてこれらの電気伝導性のメカニズムを固体NMRスペクトルやESI-MSなどの測定結果を基に明らかにする。また現在、構造解析を進めている希土類金属を取り込んだ混合原子価ポリモリブデン酸イオンの物性評価を行い、新しいプロトン伝導性物質としての可能性を検討する。本研究は最終年度を迎えるためH26年度はこれまでの成果を総括し、今後より高温で高い電気伝導性を示すポリ酸イオンを得るための指針となる知見を得ることを目標とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は参加した学会開催地が当初予定していた場所ではなく近隣(名古屋大学)であったために旅費がかからなかったため、その研究費分を次年度に繰り越した。 平成25年度から繰り越した107,113円は増額が必要と思われる平成26年度の学会参加費用と消耗品費、その他(元素分析費や論文投稿にかかる費用)へ振り分ける。平成26年度の研究費では備品として当初予定していたとおりポリ酸の光化学的合成に必要な紫外光ランプを購入し、ポリ酸合成のスピードをあげて研究をまとめる段階へ入る。
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