本研究の目的は,試料液を通すだけで全電解が可能なトラックエッチ膜フィルター電極と固定化酵素反応器を積層した,新しい集積型酵素センサーを提案することである。このシステムは,2枚のトラックエッチ膜フィルター電極で固定化酵素反応器を挟み,これに試料溶液を貫通させるという構造である。すなわち,アスコルビン酸や尿酸のような共存物質を分解しつつ,酵素反応で生成した過酸化水素を選択的に検出することができる。これに従えば,過酸化水素選択性透過膜や電子メディエータ分子などの用いることなく,重ねるだけのシンプルな構造で,目的とする物質を選択的に検出できる酵素センサーとなる。さらにこのセンサーでは,異なる固定化酵素を搭載した反応器をフィルター電極で挟み込んだものを直列に配置することで,複数種の対象物質を同時に検出できるシステムとなる。平成26年度は,これまで筆者らが開発してきたフロー電解セルを改良し,固定化酵素反応器を複数段設置できるセルを作製した。その結果,グルコースと乳酸のそれぞれの酸化酵素を用いて,これらの濃度がそれぞれ独立に電流シグナルとして反映されるシステムとしての動作が確認され,重ねるだけのシンプルな構造でありながら,共存物質の影響を受けずに選択的に複数種の対象物質を同時検出できることが実証された。
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