研究実績の概要 |
藻場の磯焼けと沿岸海水中に存在する溶存鉄化学種との関連を明らかにすることを目的に、我々は、測定することの困難な、海水中の溶存Feに対する精度・正確さに優れた高感度分析法を開発した。微量成分の化学状態別分析に優れた固相分光流れ分析法に対し、1回の定量操作ごとに光学セルに対する固相の排出と再充填を繰り返すビーズインジェクション法を適用したこの新たな分析法に対し、 Fe(II)- 1,10-フェナントロリン錯生成系を適用することで、海水中にsub-ppbレベルで存在する溶存Fe(II)の定量が行えることを確認した。しかしながら、磯焼けの要因の一つとして考えられているFe(II)化学種に対してより正確な分析値を得るためには、試料の酸固定が不要で、しかも試料採取から定量までの間に生じる可能性の高いFe(II)化学種の状態変化を考慮する必要の無い、上記分析法のon-site分析化が必要であることが確認された。 オンサイト分析化に対する種々の至適条件の検討結果から、ノートPCを制御と電源供給に用いるポータブルタイプのシングルビーム分光光度計、ならびに高輝度ハロゲンランプの組み合わせでon-siteでの定量が可能であること、さらにバッチ発色させた試料溶液を導入していたこれまでの流れ系をFIA化することで、95 ppt の検出限界がon-siteでも得られることを確認した。 以上本研究期間中に開発してきた方法を実試料分析に適用したところ、磯焼けの有無にかかわらず、すべての沿岸海水中でsub-ppbレベルのFe(II)の存在が確認された。これまでFe(II)濃度の減少と磯焼けの関連が数多く報告されてきたが、本研究により、磯焼けにはFe(II)濃度以外の要因が影響していることが示唆された。
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