研究課題/領域番号 |
24550095
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
倉光 英樹 富山大学, その他の研究科, 教授 (70397165)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分光電気化学 / 光ファイバー / ATRシグナル / ITO |
研究概要 |
本研究では、三つの異なる選択性を同時に発現する、多元選択性を有するセンサーデバイスの開発を目的とする。分析対象物質は電気化学的酸化・還元反応から得られる光吸収応答のモジュレーションから検出されるため、1) 選択濃縮膜への取り込み、2) 酸化・還元電位、3) 光化学特性による三元の選択性が同時に発現する。 光ファイバーによる分光電気化学測定の予備実験として,ITO薄層電極セルと酸化還元指示薬であるメチレンブルーを用い,光ファイバーによる電気化学モジュレーション応答の測定を試みた。光ファイバーにはコア径200 μmのマルチモードプラスチッククラッドファイバーを用い、シリカコアをむき出しにした8 cmのセンシング部位から得られるATRシグナルを計測した。ITO薄層電極セルは, ITOガラスとスライドガラスを,両端のシリコンスペーサーによって隙間の厚さ400 μmで重ねあわせた後,熱収縮チューブで固定することにより作成した。この実験系におけるメチレンブルーの透過率応答はμMオーダー以上の濃度で得られた。メチレンブルーの極大吸収580 nmで,電気化学的なモジュレーション応答を得ることに成功した。-0.8 Vの電位の印加でATRシグナルが減少し,0.8 Vの印加によって元のシグナル強度に回復した。800秒の電位変調の繰り返しにより,約10 %の連続的な透過率変調を得ることに成功した。 しかしながら,光ファイバー表面の電極化には課題が残った。光ファイバーへのITO薄膜コーティングを,代表的な化学的成膜法であるゾル-ゲル法などを利用して検討したが,得られた光ファイバーの表面抵抗は100 kΩ/cm前後であり,電極として利用可能な電気抵抗が得られなかった。また,繰り返しのコーティングでも導電性の向上は見られなかった。このことから,光ファイバーの電極化に関しては,今後,更なる検討を要する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発を試みているセンサーは,光ファイバーとそのコア部表面に構築した透明電極層と選択濃縮膜層から成るもので,検出部位である光ファイバー表面で得られる電気化学的なATRシグナルのモジュレーションから分析対象物質をセンシングするものである。ファーバー表面の電極化には課題が残るものの,薄層セルを用いた実験系からは,モデル物質であるメチレンブルーの電気化学的なATRシグナルのモジュレーションが高感度に得られているため,初年度に得られた成果としては概ね満足できるものであると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
申請書に記載した研究計画に基づき,本年度は,多元選択性電気化学-光ファイバーセンサーの開発に取り組む。 センサーの母体となる透明電極光ファイバーの表面に、以下の二種類を選択濃縮膜のコーティングをそれぞれ検討し、三元の選択性が同時に発現する電気化学-光ファイバーセンサーの開発を達成させる。フェロシアン化物イオンを分析対象物質として検討を進める。 1) 高分子電解質を包埋させたゾル-ゲル薄膜。 2) 表面修飾により機能化させた金コロイド粒子の自己集積膜。 前者に関しては、これまでの研究で利用してきた、常温調整可能なメソポーラスシリカに陽イオン性高分子電解質を包埋させたものを適用させる。後者に関しては、現在研究室内で金コロイドの作製が可能になったばかりであり、チオール修飾によるその機能化を現在検討している段階である。選択濃縮膜へのフェロシアン化物イオンの分配挙動や膜内拡散などに関しては研究分担者の田口教授が担当する。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き,透明電極として最も広く利用されているITOを用いて、光ファイバーへのコーティングを検討する。クラッドを取り除き、コア部をむき出しにした光ファイバーの部位にITOをコーティングする。ITOのコーティング法としては、代表的な物理的作製法であるスパッタ法と化学的な作製法であるディップ法を適用し、ITOの膜厚が異なる試作品を作製する。得られた透明電極光ファイバーの電気的特性と光特性を評価する。 さらに,メチレンブルーに加えて,ジフェニルアミン、インジゴスルホン酸などの代表的な酸化還元指示薬を用い、透明電極光ファイバーの分光電気化学的な性能を評価する。電位の走印に対する酸化指示薬の光吸収モジュレーションの大きさや速度、光路長(すなわち透明電極コーティング部位)の長さと得られる分光電気化学測定値などを主に評価する。
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