研究実績の概要 |
本研究では、三つの異なる選択性を同時に発現する、多元選択性を有するセンサーデバイスの開発を目的とした。センサーは光ファイバーとそのコア部表面に構築した透明電極層と選択濃縮膜層から成る。分析対象物質は電気化学的酸化・還元反応から得られる光吸収応答の変調(モジュレーション)から検出されるため、1) 選択濃縮膜への取り込み、2) 酸化・還元電位、3) 光化学特性による三元の選択性が同時に発現する。 光導波路であるコアを露出した部分に金メッシュ電極を被覆し、光ファイバー電極とした。コアの表面に陰イオン性界面活性剤の単分子膜を構築し、陽イオン性色素であるメチレンブルーを静電的に吸着させた。その結果、検量線の傾きは未修飾のコアと比較して約30倍増大した。また、シランカップリング剤によってコア表面にアミノ基を導入することにより、フェロシアン化物イオンについても感度の改善に成功した。最適化したセンサーのメチレンブルーとフェロシアン化物イオンの検出限界は、それぞれ8.3×10-9 M、7.1×10-4 Mであった。これらの結果より、自己組織化単分子膜による対象物質の濃縮は分光電気化学光ファイバーセンサーの検出感度と選択性を向上させる上で有用な戦略であることが示された。 さらに、米国ハンフォード核施設における放射性物質廃棄タンクの水質をモデルとし、廃棄タンク内の水質モニタリングへの応用を検討した。高濃度のNi2+, NO3-, NO2-などを含む模擬廃水を調製し、フェロシアン化物イオンの分光電気化学測定を行った。その結果、これまでの実験結果と同様に、酸化還元反応に起因した吸光度の変調が得られた。回収率は92% (2.0×10-1 M)であり、検量線の傾きも高い精度で一致した。
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