研究課題/領域番号 |
24550098
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
鈴木 保任 山梨大学, 医学工学総合研究部, 講師 (20262644)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 発光ダイオード / フィルター濃縮 / 反射吸光度 / リンーモリブデンブルー / フェロシアン化物 / 簡易分析 |
研究概要 |
測定対象となる物質をろ過することでフィルター上に濃縮する方法は、従来用いられてきた溶媒抽出法と比較し、操作が簡便で人体や環境に有害な有機溶媒が不要な点が優れている。本課題では、固体表面の反射吸光度を測定できる、小型で簡便な装置の開発と様々な物質の定量への応用を目的とした。 まず発光ダイオード (LED) を光源とする反射型比色計を試作した。430 nmから740 nmまでの8つのLEDを順次点灯させ、光ファイバーにより集光した。中空のステンレス半球の頂点位置にこのファイバーを取り付け、開口部に試料を保持したフィルターを置き、LEDからの光源光を照射した。この半球の45°方向に検出用の穴を設けて光検出器を置き、反射光強度を測定した。コントローラーにより各部を制御し、各波長における反射吸光度及びKubelka-Munk関数 (K-M関数) を求めた。装置は掌サイズで、006P乾電池で数時間駆動できる。 この装置をモリブデンブルー法によるリンの定量に応用した。リンとモリブデンが反応して生成したモリブデンブルー溶液をろ過することで、フィルター上に捕集した。このフィルターの740 nmにおける反射吸光度を測定し検量線を作成したところ、リンの絶対量として0~0.1 μgの間で直線が得られ、検出限界は試料中濃度として1 μg/Lと高感度であった。河川水中のリンを定量したところ、公定法の結果と非常によく一致した。 続いて、食塩の凝固防止剤として添加されるフェロシアン化物の定量に応用した。公定法であるプルシアンブルー法に準拠し、得られたプルシアンブルーをフィルター上に捕集して測定した。測定波長635 nmでK-M関数による検量線を作成したところ、フェロシアン化ナトリウムとしての基準値である20 mg/kg付近を含んで良好な検量線が得られ、市販の食塩への添加回収実験でも良好な結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では反射型吸光度測定装置の開発、リン (あるいはヒ素) の定量へ応用、及び試料調製の自動化システムを予定していた。このうち、測定装置の開発及びリンへの定量は実現できた。この過程で、反応促進剤としてアンチモンの替わりに安全な代替試薬として報告されているビスマスを用いると、リン標準溶液と河川水試料でスペクトル形状が変化し、大きな定量誤差を生じることがわかった。誤差の原因を検討するのに時間を要したため、試料調製の自動化は設計段階に留まってしまい、進捗が遅れている。しかしながら、次年度以降予定をしていた新たな分析対象への測定方法の開発と応用として、食塩の凝固防止剤として添加されるフェロシアン化物の定量法を開発したところ、法的な基準レベルの濃度を十分な正確さで測定できる性能を得られた。 さらに、簡易分析法として市販されている「パックテスト」の着色を定量化する装置の開発も目的としているが、これに対応した装置の試作を終了しており、次年度から直ちに評価できる段階にある。 そのため、計画とは一部前後しているが、課題とした項目を達成できていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
市販簡易分析法に対応した試作装置の評価を実施する。本課題に類似した濃縮法を採用した製品として、マンガン、銅、シリカ (酸化ケイ素) を定量するためのものが開発されているので、これらを使用して検量線の作成、定量性能 (感度、精度) を評価するとともに、実際試料 (天然水、水道水等) の分析に応用する。なお、この製品はフィルター面積が小さい(直径約5 mm) ため、今年度の装置 (フィルター径25 mmに対応) と比較して反射光強度が減少し、精度の悪化が予想されるので、光量の増強などを図っているが、評価結果を元に必要であれば、さらなる装置の改良を検討する。 続いて、設計した自動前処理装置を試作し、リンの分析に必要な混合などの操作の自動化を試みる。現場での利用を想定しているため、ポンプには簡便な物を使用する予定である。制御のためのプログラム作成には、今年度購入予定の市販ソフトウェアを用いる。自動調製により得られた溶液をろ過し、反射吸光度測定装置により吸光度を測定して、調製の再現性等を評価する。こちらにおいても、必要であれば高精度なポンプを用いて比較評価を図る。25年度はまずリン単独の前処理を実現し、26年度にはヒ素、リン両用の装置開発を目指す。併せて、今年度問題となった反応促進剤による妨害の影響を検討する。参考文献や、研究室内で先行試作した装置による定量では、ビスマスを反応に用いても公定法による定量結果との差異はなかった。定量に供した河川水試料中の共存物質をICP発光分析装置やイオンクロマトグラフ装置により定量し、何が影響しているのかを調べ、マスキング試薬の利用、測定波長の変更などにより、影響の除去を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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