研究課題/領域番号 |
24550098
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
鈴木 保任 山梨大学, 医学工学総合研究部, 講師 (20262644)
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キーワード | 発光ダイオード / フィルター濃縮 / 反射吸光度 / リン-モリブデンブルー / 簡易分析 / 分析キット |
研究概要 |
測定対象となる物質をろ過し,フィルター上に捕集,濃縮する方法は,従来の溶媒抽出法と比較して操作が容易であり,かつ環境や人体への影響が大きい有機溶媒が不要という利点を有している.目的物質を試薬により発色させ,これをフィルターに捕集して反射吸光度を測定すれば,簡便な操作で高感度な分析が可能となる. 前年度には430~740 nmの8個の発光ダイオード (LED) を光源とする反射吸光度検出器を試作し,天然水の水質汚濁の指標であるリンの定量と,食塩の凝結防止剤として用いられるフェロシアン化物の定量に応用した. 今年度は,より簡便な操作で種々の物質を定量できるよう,小径のフィルターに発色した物質を捕集して分析する,市販のキットを利用できるよう装置を改良した.この装置を用い,キットとして市販されている銅,マンガン,クロムを分析する製品と組み合わせ,それぞれの元素の定量を試みた.定量性能について評価したところ,いずれも良好な精度での測定が可能であった.なお,銅については6 μg/Lという非常に低い検出限界が得られ,河川水に銅の標準溶液を添加して回収実験を実施したところ,ほぼ100%の回収率が得られた.また,このキットに付属する小径フィルターを利用し,昨年検討したリンのモリブデンブルー定量法に応用した.濃縮倍率の向上に伴い,検出限界が従来の1 μg/Lから0.2 μg/Lと5倍の高感度化を達成できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画では,簡易分析キットに対応した反射吸光度検出器の試作とキットを用いた分析性能の評価を予定していた.また,試料の発色操作を自動化するためのシステムの構築も計画していた. 前者については概要にも示した通り,市販キットのうち銅,マンガン,シリカの分析に応用することができた.前年度と比較すると,使用するフィルターの直径が25 mmから約7 mmに減少したことで反射光量が減少するので,測定精度の悪化が懸念された.そこで装置とフィルターの相互の位置の再現性を向上させるためのアダプターを作製した.また,測定可能な波長を必要な4波長 (430, 515, 622, 740 nm) に絞り込み,小面積から十分な反射光量が得られるような光学系とした.これらの工夫により,従来の装置と同等の測定精度 (相対標準偏差として10%以下) の精度で測定することができた.また,計画には含まれていないが,市販のキットでは開発されていないリンの定量法に本装置を適用してみたところ,前年度の結果よりも感度が向上した.なお,リンの定量に用いる反応促進剤 (アンチモン及びビスマスの間で定量値が変化する) の影響については,まだ結論を得られていないが,吸収スペクトルの形状が変化することが確認できており,この原因を追究している. 後者については送液システム (ポンプ) の制御までが可能になったが,自動化を達成することはできなかった.送液チューブを自動的に液面へ出し入れできる機構の試作を進めている.
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今後の研究の推進方策 |
自動調製装置の開発は,複雑な構造を有するものではなく,一定体積の溶液の採取と混合までの自動化を実現する.バルブ等の切り替え等は手動として,調製した試料の再現性等を確認する.さらに,流路の切り替え等の自動化も可能として再度再現性を検討する.また,可能であれば振とうや加熱の機能を付加し,反応に要する時間の短縮も試みる. 反射吸光度検出器の応用については,引き続きリンの反応についての検討を進めるとともに,キット付属のフィルターチップと組み合わせた他の物質の定量法を開発する.例えば,ピリジルアゾ化合物を用いる種々の金属元素の定量法は高い感度を有しており,先行研究でフィルター濃縮と組み合わせた分析法を検討してきた.しかし,その際には捕集状態にむらがあり,精度が不十分であった.リンでの定量において,キット付属のフィルターでは均一な捕集が可能であったことから,本装置による定量を検討する.フィルター素材の違いにより既存の条件では捕集できない可能性があるため,捕集効率を向上するための条件 (界面活性剤等) を検討する.
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次年度の研究費の使用計画 |
海外にて成果発表を予定していたが,日程が合わず発表できなかったため,その分の旅費を次年度へ繰り越すこととした. 繰り越し分については,海外における成果発表の旅費として使用する.その他の費用については,論文の校閲,投稿料,別刷費用として利用の予定である.物品費については,備品等の購入の予定はなく,リン及びその他の測定に使用する試薬,ガラス器具に,また,自動調製装置のために電子部品,金属材料等のいずれも消耗品の購入に充てる.
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