研究課題/領域番号 |
24550101
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
田中 秀治 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 教授 (40207121)
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研究分担者 |
竹内 政樹 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 准教授 (10457319)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | フロー分析 / 振幅変調 / 高速フーリエ変換 / 亜硝酸イオン / リン酸イオン / アンモニア態窒素 / 自動分析 |
研究概要 |
気節-非相分離振幅変調多重化フロー分析法の構築を目的として研究を行った。総流量一定のもと,周波数が異なる交流波形制御信号によって流量を変動させた2試料を,第3の流路から吸引される呈色試薬と合流させ,続いて第4の流路から導入される空気によって分節した。気液両相を相分離することなく検出器へと導き,得られた信号をコンピュータに取得した。検出信号の傾き及び液相信号からの変位をもとに気節由来信号を判別・除去し,移動平均処理による平滑化を行ったのち,高速フーリエ変換によって各試料に対応する周波数成分の振幅をそれぞれ求めた。 すでに開発済みの単一試料分析用のシステムおよびソフトウェアを多試料同時分析用へとそれぞれ改良した。構築したシステムをナフチルエチレンジアミン吸光光度法による1試料中の硝酸イオン・亜硝酸イオンの同時定量,マラカイトグリーン法による2試料中のリン酸イオンの同時定量,インドフェノールブルー法による2試料中のアンモニウムイオンの同時定量にそれぞれ応用した。基本的分析条件を確立したのち実試料の分析へと応用し,ほぼ100%の良好な回収率を得た。 本研究の成果は,2012年9月のThe 6th Shanghai International Symposium on Analytical Chemistryなどにおいて発表した。硝酸イオン・亜硝酸イオンの同時定量に関する研究成果は,Anal.Sci.誌に論文公表した。 振幅変調多重化フロー分析法は,本研究代表者が開発した分析法であり,周波数解析の概念を導入した他に例の見られないユニークなフロー分析法である。本研究では,流れの中に気節を導入することにより,管内での分散,したがって振幅の減衰が抑制され,実用分析が可能なレベルへと同分析法の高感度化を達成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発済みの単一試料分析用の気節-振幅変調フロー分析法を多試料同時分析用の気節-振幅変調多重化フロー分析法へと発展させることができた。多重化に伴う気泡トラブルや流量不安定化を懸念していたが,意外なほど問題が発生せず,システムおよびプログラムを容易に発展させることができた。 ナフチルエチレンジアミン吸光光度法による硝酸イオン・亜硝酸イオンの同時定量(前者はCu-Cdカラムで亜硝酸イオンへと還元),マラカイトグリーン法によるリン酸イオンの同時定量,インドフェノールブルー法によるアンモニウムイオンの同時定量にそれぞれ応用し,気節を導入しない振幅変調多重化フロー分析法に比べ1.5倍程度(制御周期等に依存する)の感度を得ることができた。亜硝酸イオンおよびリン酸イオンの定量では,0.1~1 μMレベルの定量が可能になったが,アンモニウムイオンの定量については,その検出限界(0.14 mM)は改善の余地があると考えている。 本年度の達成度において残念なところは,最も完成度が高いと思われるリン酸イオンの定量に関する研究成果を欧州の著名学術誌に投稿したものの,「振幅変調多重化フロー分析法」の学術的独創性・新規性には全く目が向けられず,本研究代表者には全く承服し難い観点からの批判(システムが複雑。既存法でも定量可能なレベルなので新規分析法を考案する意義がない)を受け,却下されたことである。更なる推敲を行ったのち,近いうちに再度,欧州の主要学術誌に投稿したい。
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今後の研究の推進方策 |
単一試料への気節導入とは異なり,多試料混合系に気節を導入する本研究の場合には,複雑な信号形状のため気節由来信号の認識において困難が生じると予想していた。このため,2年度目は自作プログラムによる信号処理ではなく,直接的な相認識,すなわち2波長を用いる相認識法や,吸光度測定と導電率測定の併用による相認識法の検討を計画していた。しかし,初年度の研究において,多試料同時分析においても検出信号のプログラム処理が十分に高い信頼性のもとに行えることが明らかになったので,2年度目はさらに低濃度の目的物質を定量するために,気節-振幅変調多重化フロー分析法の高感度化を主たる研究目標としたい。 その方策として,電気分析法の一種であるストリッピングボルタンメトリーの原理を振幅変調多重化フロー分析法に導入する。すなわち,流れ系に電極を挿入し,対極との間の電位差を周期的に変動させることによって,作用極上への目的物質の濃縮と溶出を周期的に繰り返す。下流で測定を行い,検出信号のピーク高さ(あるいは周波数解析によって得られる振幅)から目的成分の定量を行う。本法では,目的物質を一旦電極上に濃縮させるため,単なるフロー分析法に比べて高い感度が得られると期待できる。
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次年度の研究費の使用計画 |
①当該研究費が生じた理由(繰越の理由) 平成24年度の支出項目のうち,「旅費」,「人件費・謝金」,「その他」の計3項目の支出については,計画と実績との間に大きな開きはなかった(それぞれ14,940円,990円,22,941円の減)。したがって,平成25年度への繰越金は主として物品費・消耗品費の支出が少なかったことによる(予算額1,650,000円,実績額1,193,548円)。この理由としては,予定していたA/D-D/Aコンバータを研究室現有品で代用できたこと(購入予定の機種が製造中止になった),気節導入と自作ソフトウェアによる気節認識が予想に反して至って順調に行えたため,特別な気節導入デバイスを製作あるいは購入する必要がなかったことなどが挙げられる。 ②使用計画 平成25年度では,これまでの流量の周期的変動ではなく,電位の周期的変動を利用した高感度振幅変調フロー分析法について検討したい。平成24年2月に提出した使用内訳明細書には,光検出器改造費として200,000円を計上していたが,研究代表者が所属する研究室の講座等経費に残額が生じたため,平成24年3月中にこれを行うことができた。したがって,この予算を電位あるいは電流を制御できるポテンショ・ガルバノスタットの購入に充てたい。その他は,予定通りフロー電解セルの製作,電極購入,熊本での成果発表などに使用する。
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