研究課題/領域番号 |
24550108
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
田代 充 明星大学, 理工学部, 教授 (40315750)
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研究分担者 |
吉村 悦郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (10130303)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 分子間相互作用 / 標的タンパク質 / リガンド / 特異的検出 / 核磁気共鳴法 |
研究概要 |
本申請課題では、標的タンパク質との結合に寄与するリガンドの部位を特異的に検出できる高感度な核磁気共鳴法の開発を目指している。核磁気共鳴法では試料中の原子核を観測する。本研究では、低分子であるリガンド分子中の特定の水素原子核を観測対象としている。シグナルの形状変化により、標的タンパク質との結合に寄与する水素を選択的に認識できる測定法の汎用性、利便性が高いものと考えるからである。初年度である平成24年度では、以下に示す3種類の複合体について分子間相互作用の解析を行った。 1. パーキンソン病の原因遺伝子産物であるalpha-シヌクレイン(タンパク質)とドパミン、グルタチオン(リガンド) 概要:alpha-シヌクレインは線維化することが知られているが、ドパミン存在下では線維化が抑制され、オリゴマーすることにより毒性を発現するとの報告がある。本測定法により、alpha-シヌクレインとドパミンは相互作用するものの、グルタチオンは相互作用には関与しないことが判明した。 2. スクロースの分解酵素であるインベルターゼ(タンパク質)とN-アセチル-D-グルコサミン(リガンド) 概要:インベルターゼはスクロースの誘導体であるN-アセチルスクロサミンを分解しないことより、N-アセチルの部分構造が結合に関与するものと考え、相互作用解析を行っている。 3. ヒト血清アルブミン(タンパク質)-フロセミド(リガンド) 概要:薬剤であるフロセミドのどの水素が、ヒト血清アルブミンとの結合に関与するかを解析中である。各シグナルの面積強度の比較より、候補となる水素を特定化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画は、(a) Water-LOGSYおよびSaturation Transfer Difference (STD)法での高感度化の検討、(b) エレクトロスプレーイオン化質量分析法による複合体形成の確認、(c) 水シグナルの消去方法の確立、の3項目であった。 (a)に関して、申請者らは数種類の測定方法を報告してきたが、汎用性を考慮した場合、報告例以外のモデルシステムにも適用を試みた。標的タンパク質として、スクロースの分解酵素であるインベルターゼ、リガンドとしてN-アセチル-D-グルコサミンを用い、Water-LOGSYを適用したところ、共鳴周波数によっては消え残りと思われるシグナルが観測された。シグナルの形状は、結合するリガンドの解釈に影響を与えるため、消え残りを最小限にする必要がある。対策として、ダミーパルスを多くする、および待ち時間を長くすることによる溶液温度の安定化を試みた。これらは積算効率と相反する測定条件となるため、高感度化の観点からは障壁となるが、シグナル形状の安定化を優先すべきと考えた。消え残りシグナルは完全とは言えないが抑制されているので、次に高感度化の検討を行う。 (b) に関して、アミロイド線維化することが報告されているalpha-シヌクレインを標的タンパク質とし、リガンドとしてドパミンを用いた。ドパミン存在下では、alpha-シヌクレインの線維化が抑制され、オリゴマー化が促進されることが報告されている。alpha-シヌクレインとドパミンの相互作用を確認するため、エレクトロスプレーイオン化質量分析法による解析を行ったところ、alpha-シヌクレイン1分子に対して、ドパミン3分子結合することが明らかになった。 (c)では、水の共鳴周波数にWETシーケンスを繰り返し適用することにより、効果的な消去が可能になった。引き続き、検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、結合に関与する水素原子のみを特異的に検出する測定方法の開発に焦点をあてて研究を遂行中である。当初の研究計画・方法では、ヒト血清アルブミン-トリプトファンおよびリゾチーム-オリゴ糖をモデルシステムとして考えたが、他の複合体モデルとして、リボヌクレアーゼT1 (RNase T1)とその阻害剤である3’-AMP複合体の検討も試みる。3’-AMPは塩基部分にH2, H8の非交換性プロトンを有し、共に8 ppm付近に観測される。基礎実験を行ったところ、Water-LOGSYスペクトルでは、H2シグナルの面積強度が H8の約2倍であった。レセプターであるRNase T1に接触するプロトンがブロードになると一般的に考えられる。現在、X線結晶構造と比較し、Water-LOGSYの結果を解析中である。他にヒト血清アルブミン-フロセミドに関して、同様にシグナル強度の変化と結合に直接関わるプロトンとの関連性について検討を行っている。 平成25年度以降の基本計画に関しては大きな変更はないが、応用性を検討する際に使用するモデル複合体として、スクロースの分解酵素であるインベルターゼ(レセプター)、N-アセチル-D-グルコサミン(リガンド)、N-アセチルスクロサミン(リガンド)なども使用する予定である。現在、インベルターゼ-N-アセチル-D-グルコサミンおよびインベルターゼ-グルコースについて、検討を行っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.液体ヘリウム 本研究課題の遂行において、核磁気共鳴装置が分析機器の中心的役割を担っている。超伝導磁石により高磁場を作り出しているが、超伝導状態は極低温でのみ維持されており、液体ヘリウムを定期的に充填する必要がある。液体ヘリウムは天然ガスの採掘時に得られるが、近年、世界全体で供給量が大幅に落ちており、入手の困難さと共に、国際的な価格高騰が起こっている。このための予算確保が必要となる。 2.化学試薬および核磁気共鳴用特殊試料管 「今後の研究の推進方策」で記述したように数種類のタンパク質およびリガンドを使用するため、これらの化合物の購入費用に充てる。また、核磁気共鳴での溶媒として、重水素置換溶媒および試料管を購入する。試料管は、通常の試料管より容量を半分程度に抑えることが可能な特殊試料管(シゲミ社製・各種溶媒用磁化率マッチング対称形ミクロサンプルチューブ)も購入する。この試料管では、溶液内の対流を抑制することも可能となり、拡散係数測定の際には必需品となる。ガラスの磁化率が、溶媒に近い特殊な素材を使用しているため、1本10,000円と高価であるものの、本研究課題に遂行には必要な物品である。 3.核磁気共鳴装置の維持管理に伴う費用 液体窒素循環装置およびエアーコンプレッサーなど、核磁気共鳴装置の付属機器のメンテナンスを平成25年度に行う。本学の核磁気共鳴装置が納入後、約5年経過しており、部品によっては経年劣化による交換が必要となり、装置全体の維持および修理費用に充てる。
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