研究概要 |
われわれはすでに(1S,1'S)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンが有効な不斉源であることを報告しているが、ジエチル亜鉛のアルデヒドへの触媒的不斉付加反応を2回行うなど合成経路が比較的長く、また種々のキラルジオールの合成に適用することは必ずしも容易ではなかった。そこで、o-フタルアルデヒドを出発物質として、種々の置換基をもつラセミ体の1,2-ビス(1-ヒドロキシアルキル)ベンゼンの合成と、得られたラセミ体1,2-ビス(1-ヒドロキシアルキル)ベンゼンの光学分割を検討した。その結果、市販の光学分割剤(S)-5-アリル-2-オキサビシクロ[3.3.0]オクタ-1(8)-エン((S)-ALBO-V)によりジアステレオマーに変換後、クロマトグラフィーにより分離し加水分解する方法、あるいは(+)-ベンゾテトラミソールを触媒とするエナンチオ選択的アシル化反応により、種々のキラルジオールを簡便に入手できる方法を確立した。得られた各種(1S,1'S)-1,2-ビス(1-ヒドロキシアルキル)ベンゼンとo-フタルアルデヒドから対応するモノアセタールを合成し、グリニヤール試薬、有機リチウム試薬のカルボニル基へのジアステレオ選択的付加反応およびキラル3-置換フタリドの不斉合成を検討した。その結果、キラルジオール上の置換基が有機金属試薬の付加反応のジアステレオ選択性に大きな影響を与えることが分かった。 また、上記のキラルジオールを合成するためのより基礎的な反応である非対称ケトンの不斉ボラン還元、アルデヒドのジアルキル亜鉛による不斉アルキル化について検討を行ったところ、不斉ボラン還元には(S)-2-(アニリノジフェニルメチル)ピロリジンが、アルデヒドの不斉アルキル化には(S)-1-アルキル-2-(アリールアミノメチル)ピロリジンが優れた触媒となることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに合成法を確立していた(1S,1'S)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンとo-フタルアルデヒドから対応するモノアセタールを調製し、グリニヤール試薬、有機リチウム試薬のカルボニル基へのジアステレオ選択的付加反応を検討したところ、アリールリチウムとの反応により90%de以上の選択性で反応が進行することが分かった。しかし、各種グリニヤール試薬やアルキルリチウム試薬との反応では満足できる選択性が得られなかった。そこで、ジオール上の置換基をエチル基より嵩高いものに代えて反応を行うことにしたが、置換基を嵩高くするとラセミ体の合成収率が極端に低下した。合成経路を新たに設計し、3-ペンチル基のような嵩高い置換基をもつ化合物も比較的良好な収率で合成できるようになった。得られた3-ペンチル基を置換基として持つジオール、(1S,1'S)-1,2-ビス(1-ヒドロキシ-2-エチルブチル)ベンゼン、を用いることにより、ブチルリチウムとの反応においても98%de以上の選択性で反応が進行することを見いだした。 ブチルリチウムを用いた場合にも高い選択性が得られたので、本反応を有用な生理活性物質である(+)-スピロラキシンメチルエーテルの合成に適用することを計画した。(+)-スピロラキシンメチルエーテルの合成には、置換o-フタルアルデヒドモノアセタールにアリルリチウムのジアステレオ選択的付加反応を行う必要があった。しかし、o-フタルアルデヒドモノアセタールのベンゼン環上に置換基を導入した場合には、選択性が低下した。現在、その原因の解明を行っている。 キラルジオールのその他の不斉反応への適用は今後の課題であるが、エチル基を置換基として有するキラルジオールのキラルアミノアルコール、キラルジアミンへの誘導については、ほぼ経路を確立することができた。
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