研究概要 |
平成24年度において、o-フタルアルデヒドから得られる1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンに各種光学分割法を適用し、(1S,1'S)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンおよび(1R,1'R)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンを比較的容易に入手する方法を確立した。一方、キラルなアミノアルコールは種々の不斉反応の優れた反応剤、触媒となることが知られている。そこで、(1R,1'R)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンから(R)-1-(2-((S)-1-(ジメチルアミノ)プロピル)フェニル)プロパン-1-オール、および(1S,1'S)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンから(S)-1-(2-((S)-1-(ジメチルアミノ)プロピル)フェニル)プロパン-1-オールへの立体選択的誘導について検討し、それぞれ7段階、9段階で誘導できることを明らかにした。得られたキラルな1,4-アミノアルコールを触媒として用いたジエチル亜鉛のベンズアルデヒドへの不斉付加反応を行ったところ、(R)-1-(2-((S)-1-(ジメチルアミノ)プロピル)フェニル)プロパン-1-オールを用いた場合も、 (S)-1-(2-((S)-1-(ジメチルアミノ)プロピル)フェニル)プロパン-1-オールを用いた場合も、高い光学純度でいずれも(R)-1-フェニルプロパノールが得られた。 上記で得られた知見を元に、より簡便にベンジル位炭素にキラリティを導入できるキラルアミナール構造を持つ1,4―アミノアルコールを設計、合成し、ジエチル亜鉛あるいはアルキニル亜鉛試薬とベンズアルデヒドの反応を行い、興味ある知見を得た。 以上、o-キシリレン骨格をもつキラルな1,4-アミノアルコールの不斉触媒としての有用性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1R,1'R)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼン、(1S,1'S)-1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼンを、それぞれ(R)-1-(2-((S)-1-(ジメチルアミノ)プロピル)フェニル)プロパン-1-オール、 (S)-1-(2-((S)-1-(ジメチルアミノ)プロピル)フェニル)プロパン-1-オールに立体選択的に誘導する方法を確立した。また、得られたキラルな1,4-アミノアルコールは、いずれもジエチル亜鉛とベンズアルデヒドの反応において96%ee以上で(R)-1-フェニルプロパノールを与えることが分かった。従来、同様の反応で高い選択性を与えるキラルな1,4-アミノアルコールは報告例も少なく、o-キシリレン骨格は不斉触媒として有効な骨格であることを明らかにすることができた。また、従来アミノアルコールにおいてヒドロキシ基の結合した炭素原子ならびにアミノ基の結合した炭素原子がいずれもキラルである場合、ヒドロキシ基の結合した炭素原子のキラリティの方が反応の選択性に大きく関与するとされていたが、本研究ではヒドロキシ基の結合した炭素原子のキラリティは反応の選択性に関与せず、アミノ基の結合した炭素原子のキラリティが反応の選択性を決定していると言う、興味ある結果が得られた。 この知見を元に、簡便にアミノ基が結合する炭素原子にキラリティを導入する方法として、アルデヒドからのアミナール構造の生成に着目し、種々のキラルアミナール構造を持つ1,3-アミノアルコール、1,4―アミノアルコール合成し、ジエチル亜鉛とベンズアルデヒドの反応を行った。その結果、触媒の構造のわずかな違いにより、選択性が低下したり、逆転すると言う結果が得られた。 以上、o-キシリレン骨格をもつキラルな1,4-アミノアルコールの不斉触媒としての有用性が明らかとなり、研究計画は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度、平成25年度において、キラルなジオール、1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼン、およびキラルなジオールから誘導されるキラルなアミノアルコール類を不斉反応剤あるいは不斉触媒として活用し、キラルなo-キシリレン骨格が不斉誘起に有効であることを明らかにした。平成24年度に、キラルなジオールを用いた反応において、側鎖の置換基として3-ペンチル基のような嵩高い置換基が有効であることを示したが、検討が十分でないので平成26年度にさらに検討を行う。 また、すでに一部検討を行った、キラルなジオール、1,2-ビス(1-ヒドロキシプロピル)ベンゼン、のキラルなジアミン、1,2-ビス(1-アミノプロピル)ベンゼン、への立体選択的誘導方法を確立する。得られたキラルなo-キシリレン骨格をもつジアミンを、活性メチレン化合物の1,4-付加反応などの不斉触媒反応に活用する。また、ジアミンあるいはその誘導体を用いて遷移金属錯体の設計・合成を行い、ケトンの不斉還元反応などの不斉触媒反応への活用を試みる。 さらに、キラルなジアミンを対応するイミダゾリウム塩、あるいはベンゾイミダゾリウム塩に誘導したのち、単座または二座含窒素複素カルベン配位子(NHC)に変換し、Pd、Ru、Rh、Irなどの遷移金属錯体を調製し、不斉アリル位アルキル化反応を始めとする不斉触媒反応を検討する。
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