研究概要 |
昨年度までに開発したパラジウムカルベノイドの新規発生法を利用して,有機色素材料の合成を検討した。触媒量のパラジウム錯体とフッ化セシウム存在下,3-トリメチルシリル-1,2-ジアーリルアリルアセテート誘導体の二量化反応を行うと,1,2,5,6-テトラアリール-1,3,5-ヘキサトリエン誘導体が中程度の収率で得られた。ここで得られた生成物は,溶液状態では蛍光発光特性を有しないが固体状態で蛍光発光する色素分子であった。例えば,1,2,5,6-テトラフェニル-1,3,5-ヘキサトリエンの蛍光スペクトルの極大波長は440nmであり量子収率は0.58であった。一方,触媒量のパラジウム錯体とフッ化セシウム存在下,3-ピナコラトボリル-1-アリールアリルベンゾエート誘導体とノルボルナジエンとの反応では,シクロプロパン化生成物がジアステレオマーの混合物として得られることを見出していた。今回,反応系に18-crown-6を添加したところ,シクロプロパン化生成物が高い立体選択性で得られる知見を得た。このことから,添加剤であるフッ化セシウムが塩基として作用するとパラジウムカルベノイドとパラダシクロブテン両方の中間体が生成し,フッ素アニオンとしてホウ素の活性化に作用するとパラダシクロブテン中間体を生成することが明らかとなった。さらに,3-ピナコラトボリル-1-アリールアリルアセテートとパラジウム触媒との反応からアリルホウ素が生成する点に着目し,アルデヒドとトリアルキルホウ素との反応を検討したところ,アンチ選択的なZ体のホモアリルアルコール誘導体の合成にも展開することができた。アンチ選択的なホモアリルアルコール誘導体の合成はいくつか知られているが,本反応では,ホモアリルアルコールのオレフィンの立体化学も完全にZ体に制御できている点で合成化学的に有用な反応である。
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