研究実績の概要 |
昨年度の研究過程で,パラジウム触媒を用いた3位にボリル基を有するアリルアセテート,アルデヒド,およびトリアルキルホウ素反応剤による三成分連結反応を見出していた。そこで,この反応開発と反応機構の解明を中心に取り組んだ。アルデヒドの検討では,芳香族アルデヒド,脂肪族アルデヒド,複素環式芳香族アルデヒドのいずれにおいても収率ならびに立体選択性の面で良好な結果を与えた。基質の検討でも高い基質一般性が確認できた。カップリング反応剤であるホウ素反応剤について検討を行ったところ,トリアルキルホウ素反応剤では中程度から良好な収率で目的生成物を与えたのに対し,9-BBNまたはピナコラトボリル基を有するアルキルホウ素反応剤では反応が進行しなかった。一方,トリフェニルホウ素反応剤の検討では,高収率で生成物を与えたが,この場合,生成物のアルケンの立体選択性が低下した(E/Z = 1 /1.5)。さらに,キラルな基質を用いて不斉転写の検討を行ったところ,興味深いことに,82%程度の不斉転写率で反応が進行し,82%eeの生成物が得られた。この生成物を既知のジオール体へ誘導し,旋光度から絶対配置を決定したところ生成物の絶対配置は(1S, 2R)であった。σ-アリルパラジウム形成時に生成するアリルボロネートとアルデヒドによる6員環遷移状態では逆の絶対配置を有する生成物が得られることになる。得られた生成物の絶対配置から反応機構を考察すると,σ-アリルパラジウムとアルデヒドの6員環遷移状態形成時にアリルボロネートがアルデヒドへ分子内求核攻撃をすることでZ体のビニルパラジウム中間体を与え,これがホウ素反応剤とカップリング反応をすることで生成物を与えるという機構が提唱できる。σ-アリルパラジウムがアルデヒドと6員環遷移状態を形成する報告例は少なく,本研究では反応機構の面からも極めて興味深い知見が得られた。
|