研究課題/領域番号 |
24550119
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
西原 康師 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (20282858)
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キーワード | 炭素-炭素結合の切断 / 極性官能基 / 機能性有機材料 / パラジウム |
研究概要 |
以前、研究代表者は、パラジウム触媒によるノルボルネンおよびノルボルナジエンに対するシアノエステル化を報告している。この反応では、シアノギ酸エステルの炭素-炭素結合をパラジウムにより活性化し、ノルボルネン誘導体に付加させることで極性官能基であるシアノ基とエステル基を同時にしかも何の副生物も生じることなく導入することができる。しかし、この反応の欠点は、基質の適応範囲がノルボルネン類に限られることである。そこで、平成25年度は、このシアノエステル化の反応機構を明らかにする目的でシアノギ酸エステルと化学量論量のロジウム(I) 錯体を用いて反応をおこなった。具体的には、ロジウム(I) 錯体に対して、等モル量のシアノギ酸エチル、リン配位子を入れ、重トルエン溶媒中 60 度で 24 時間加熱したのち、1H NMR によりシアノギ酸エチルの転換率を概算した。その結果、トリメチルホスフィンを用いたところ、等モル量では 22% の転換率で目的の錯体が生成し、3 倍モル量用いた時では、高収率で酸化的付加体である mer-エトキシカルボニル(シアノ)ロジウム(III) 錯体が生成することがわかった。シアノギ酸エステルのエステル上の置換基としては、R = Me、Et、nPr、iPr、nBu、Bn が適応可能であった。さらに、錯体のX線結晶構造解析をおこない、クロロ基とエステル基がパラジウムに対してトランス配座で結合していることがわかった。錯体の生成に関する実験として、1H NMR により反応を追跡すると、反応の初期には、速度論的に安定な錯体が生成し、その後、少しずつ熱力学的に安定な錯体へ異性化することを明らかにした。さらに、密度汎関数法 (DFT) 計算により、シアノギ酸エチルの炭素-炭素結合活性化を経由したロジウム(III) 錯体の熱力学的な安定性の比較をおこなった結果も、実験によって得られた錯体の構造が最も安定であると支持された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は、パラジウム以外の遷移金属を用いて、シアノギ酸エステルの炭素-炭素結合を活性化を検討した。具体的には、他の遷移金属としてロジウムに着目した。ロジウムは 9 族の遷移金属であるため,同様の触媒反応においても,10 族の遷移金属であるパラジウムやニッケルとは異なる挙動を示すことが期待できる。また,ロジウム(I) からロジウム(III) の錯体に変化する際には,通常,6 配位までとることができるため,平面 4 配位しか取れないパラジウムやニッケルと比較しても,配位座が二つ多い分,反応性の多様性が期待できる。ロジウム(I) 錯体に3 倍モル量のトリメチルホスフィンを作用させると、シアノギ酸エステルの炭素-炭素結合が切断され、mer-アルコキシカルボニル(シアノ)ロジウム(III) 錯体が生成することを明らかにできた。これらの実験結果から、シアノギ酸エステルの炭素-炭素結合の切断を伴う酸化的付加段階における重要な知見を得ることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
(今後の推進方策)平成26年度は、今後,ロジウム触媒によるシアノエステル化反応について検討し,パラジウムやニッケル触媒反応とは異なる新規の反応性,選択性を得ることを目指す。本触媒反応の達成のために,詳細な反応条件の検討,反応機構を精査する。さらに、当初の目的であった遷移金属錯体触媒を用いるベンザインへのシアノエステル化を達成したい。触媒反応が予定通り進行しない時には、化学量論量の遷移金属錯体を用いて反応機構を詳細に検討する。 次年度の研究費の使用計画) 平成26年度は、1,200 千円の研究費に対して、その大半を薬品や実験器具類などの消耗品費に充てる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の研究計画では、バンコクで開催される国際会議に参加する予定であったが、他の学会や会議と日程が重なってしまい、渡航することができなかったため、旅費が余った。また、人件費については、大学院生に合成の補助をしてもらう予定だったが、学内のRA経費が採択されたため、使用することがなかった。 昨年度、繰り越した助成金は、当初の予定通り、国内の学会参加費やシンガポールで開催される国際会議の旅費として使用する。また、人件費についても、今年度は、大学院生に合成の補助を依頼して使用する予定である。
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