研究課題/領域番号 |
24550127
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
土居 久志 独立行政法人理化学研究所, 分子イメージング標識化学研究チーム, チームリーダー (00421818)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | PET標識化学 / [11C]カルボキシル化 / [11C]二酸化炭素 / 常圧化学反応 / 高速化学反応 / 有機金属化学 / PET分子イメージング / 遠隔操作合成装置 |
研究概要 |
11C-標識PET分子プローブの開発研究においては、これまでに様々な標識法が開発されてきているが、その中でも11C-標識カルボン酸官能基の効果的合成法の開発は急務の課題となっている。今回、我々は、サイクロトロンから払い出される[11C]二酸化炭素を直接用いて、有機金属化学的手法によるわずか1段階の簡便な合成操作(常圧下、わずか3-5分の反応時間)で目的の[11C]カルボン酸体を合成する標識化学的手法(標識化学技術)の大きなきっかけを掴むことができた。本11C-標識法は、原理的にはアリール基あるいはビニル基に置換したホウ素化合物を出発原料として、相当する[11C]カルボン酸体を合成するための基盤技術となるものである。 具体的には、[11C]二酸化炭素とフェニルピナコールボランを用いた反応は、DMF溶液中、ある種のRh(I)触媒を用いて、100℃、3~5分で反応を行ったところ、目的の[11C]安息香酸を比較的十分量の2~3GBqの放射能で得られることがわかった。とくに本反応条件では、副生成物の生成がほとんどなく、むしろ主生成物は目的の[11C]安息香酸だけの選択性の高い標識反応であることがわかった。この良好な研究結果を受けて、標識用合成装置(遠隔操作でPET分子プローブを合成する専用機器)に取り付ける[11C]カルボニル化反応ユニットを本科研費により特注し購入させて頂いた。 今後は、 [11C]二酸化炭素の反応濃度の向上に向けた濃縮法の検討(冷却や吸着剤濃縮等)を行っていきたい。とくに、PET分子プローブ合成において重要視される一般性(どこのPET施設の合成装置でも実施可能)および実用性(簡単かつ高効率の標識合成)に目処がたった時点で、特許申請ならびに学会発表、そして学術論文での発表等を行って行く予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
サイクロトロンから払い出される[11C]二酸化炭素を直接用いて、わずか1段階の簡便な合成操作で目的の[11C]カルボン酸体を合成するための大きな切っ掛けを掴んだ。すなわち、当初の研究目的および計画と照らし合わせてみても平成24年度の研究進捗および達成度としては、おおむね順調に進展していると言える。 とくに、本標識法の特徴として、下記の三項目があげられる。 (1)サイクロトロンから払い出される[11C]二酸化炭素を直接反応溶液に吹き込むだけの簡便な操作で標識反応が行えること (2)気体の[11C]二酸化炭素を用いているために従来の研究概念では高圧下で行う方が有利であるとされるが、本研究では常圧下でも反応が進行し、かつ、必要十分な放射能を持った[11C]カルボン酸体を合成することができること (3)Rh(I)触媒を用いたカルボン酸官能基の合成法については先行研究があるが、この場合の反応時間は10-30時間と長く、また、反応に用いる二酸化炭素は基質に対して過剰量である。一方で、我々の方法では、PET放射性条件に適した新たなRh(I)触媒条件を見出し、反応時間がわずか3-5分で、目的の[11C]カルボン酸体がPET化学としては十分量の放射能(2~3GBq)で得られた。 このように、我々は、従来の有機化学反応の質的な改変を含め、短寿命放射性核種に適応した高速化学反応の開発を行ってきており、研究進捗としてはおおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続いて、[11C]カルボニル化反応ユニットの機器最適化と、高速[11C]カルボン酸合成における金属触媒の探索を行っていく。とくに、手応えのある金属触媒に対しては徹底した反応条件の最適化を行い、力量ある高速[11C]カルボン酸合成法を開発したい。なるべく平成25年度末までには、触媒検討等の化学反応の最適化は完了させたい。本件に関しては、PET分子プローブ合成において重要視される一般性(どこのPET施設の合成装置でも実施可能)および実用性(簡単かつ高効率の標識合成)を意識したシンプルな標識合成手法を目指す。また、本研究で開発できた[11C]カルボン酸合成法は、実際の薬剤あるいは創薬候補化合物の11C-標識化に応用していきたい。とくに、PET分子プローブ合成としての完成度が高まった時点で、速やかに特許申請を行い、続いて、学術発表(学会発表、論文発表等)を行っていきたい。 なお、本件と並行して、別途、国内民間企業との共同研究で、マイナス196 ℃からプラス200 ℃の温度可変にも対応できるマイクロリアクターの製作(微細加工)を進めている。将来的には、より理想的な[11C]カルボン酸合成法を目指して、本合成法をマイクロリアクターで実施できるように応用展開して行きたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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