研究課題/領域番号 |
24550127
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
土居 久志 独立行政法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, チームリーダー (00421818)
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キーワード | PET化学 / [11C]カルボキシル化 / [11C]二酸化炭素 / 常圧化学反応 / 高速化学反応 / 有機金属化学 / マイクロスケール反応器 / PET分子イメージング |
研究概要 |
11C-標識PET分子プローブの開発研究において、11C-標識カルボン酸官能基の効果的合成法の開発は急務の課題である。本研究では、これまでに、サイクロトロンで製造できる[11C]二酸化炭素とフェニルホウ素基質を用いて、Rh(I)触媒下に、常圧下、わずか3-5分の反応時間で、目的の[11C]安息香酸を効果的に合成できる標識化学条件のきっかけを掴んでいる。そこで平成24年度は、本標識手法の実用化ならびに高度化に焦点を当てて、マイクロスケール反応器の開発と本反応容器を用いた[11C]カルボキシル化法の実現を目指して研究を行った。実のところ、現時点では、マイクロスケール反応器を用いた[11C]カルボキシル化反応は困難を極めている。その理由として、超微量の[11C]二酸化炭素(数ナノモル程度、0.1-0.5マイクログラム程度)をマイクロスケール反応器内に上手く捕獲することが難しいこと、ならびに、本微小容器内での[11C]カルボキシル化反応の進行が難しいことが原因である。例えば、マイクロスケール反応器内に微量のシリカゲルやモレキュラーシーブを添加した場合には、[11C]二酸化炭素を十分に捕獲することはできたが、続く、Rh(I)触媒下、フェニルホウ素基質を用いた[11C]カルボキシル化反応がほとんど進行しなかった。恐らく、[11C]二酸化炭素がシリカゲルやモレキュラーシーブに付着してしまい、Rh(I)触媒との反応性そのものが低下したと考えられた。今後は、[11C]二酸化炭素のマイクロスケール反応器内への捕獲効率をさらに向上させるとともに、Rh(I)触媒を用いた[11C]カルボキシル化反応の進行という両者の問題をバランス良く克服する研究を続けていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当分野において、11C-標識カルボン酸官能基の効果的合成法の開発は国際競争が激しくなってきた。実際に、Cu触媒下、[11C]二酸化炭素を用いた[11C]カルボキシル化反応の報告例も出てきた。そのため、本研究では、PET化学反応における究極的目標とも言える「マイクロスケール反応器を用いた[11C]カルボキシル化反応の実現」という当初の研究目的や目標をさらに高いレベルに変えることとした。このような事情のため、研究達成度としては、現研究計画よりも「やや遅れている」と言わざるを得ない。 マイクロスケール反応器の開発に関しては、本科研費の研究内容とは別に共同研究契約を締結している(株)化繊ノズル製作所との共同下に行ってきたものである。これまでに、内部容量が20μLの11C-標識用マイクロスケール反応器の試作器を二つ開発した。そこで、本反応器を用いて実際の[11C]二酸化炭素の捕獲とRh(I)触媒による[11C]カルボキシル化反応の検討を鋭意行った。しかしながら、ヘリウムガス気流下(流速30mL/min)に含まれる超微量の[11C]二酸化炭素(数ナノモル程度、0.1-0.5マイクログラム程度)を本マイクロスケール反応器に捕獲することは大変難しく、例えば、反応器をマイナス195℃程度に冷やしても[11C]二酸化炭素の捕獲量はほとんど向上しなかった。そこで、反応器内に極微量のシリカゲルやモレキュラーシーブを添加することで、[11C]二酸化炭素の捕獲は見違えるように向上した。しかしながら、それに続くRh(I)触媒を用いたフェニルホウ素基質との[11C]カルボキシル化反応がほとんど進行しなかった。以上が、現時点での進捗状況である。 一方で、本研究計画のように、マイクロスケール反応器における11C-標識化反応の開発は当分野における喫緊の課題でもある。引き続き、鋭意研究を続けていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に関しては、これまで(とくに平成24年度)の研究活動を通じて、一般的なPET放射性条件下に適合するRh(I)触媒条件を見出したつもりであった。しかしながら、その後、マイクロスケール下という理想的ではあるが、合成化学的制限が多いPET放射性条件下では、[11C]カルボキシル化反応はほとんど進行しなかった。本進捗を踏まえて、今後は、マイクロスケール反応器そのものの改良および最適化を行っていく予定である。加えて、高速[11C]カルボキシル化反応に適用可能な金属触媒の探索、ならびに、[11C]二酸化炭素を捕獲するための添加剤の検討を行っていきたい。すなわち、シリカゲルやモレキュラーシーブのような添加剤の存在下でも反応が進行する高活性金属触媒を探索する必要があると考えている。また、[11C]二酸化炭素を効率良く捕獲するためにマイクロスケール反応器の形状等の改良も行っていきたい。 このように、一般性かつ実用性の高い[11C]カルボキシル化反応の実現を目指して研究活動を続けていく所存である。なお、平成26年度は本科研費の最終年度でもあるので、本研究で開発できた[11C]カルボン酸合成法を実際の薬剤あるいは創薬候補化合物の11C-標識化に応用・展開することを目標としたい。
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