本年度は合成完了した硫酸化ルイスXオキサゾリンモノマーを使用し、ケラタン硫酸加水分解酵素であるケラタナーゼIIを触媒として用いる酵素重合により生成するオリゴ糖の構造解析を行った。昨年度にサイズ排除クロマトグラフィーから硫酸化ルイスXが2~4個繋がったオリゴ糖(6糖~12糖)が生成していることを確認したが、これらのうち硫酸化ルイスXが2個繋がった6糖画分について分取を行い、MS/MS分析並びにNMR分析を行った。その結果、MS/MS分析から硫酸化ルイスX2個分の糖鎖成分がフラグメントとして確認された。さらに、1H NMRスペクトルから、硫酸化ルイスXがβ-グリコシド結合で繋がっていること、13C NMRスペクトルからそのグリコシドが(1→3)結合であることが確認された。これらの結果から、設計・合成した硫酸化ルイスXオキサゾリン誘導体がケラタナーゼII酵素に認識され、位置・立体選択的に連続的にグリコシル化反応をして硫酸化ルイスXオリゴマーが生成したことが解明された。 一方、ヒアルロニダーゼを用いる重合反応のモノマー合成においては、大スケールでのグリコシル化反応において副生成物が比較的多く生成し、目的物との分離が難しくなった。現在は条件検討を再度行っており、反応における試薬の添加順序を変更することにより、比較的良好な収率で合成できる結果を得ている。 以上のように、本課題研究を遂行することにより癌関連糖鎖抗原である硫酸化ルイスX構造を丸ごと転移させ、さらにその反応を連続的に引き起こしてオリゴマーを生成させることが可能な全く新しい反応の開拓に成功した。これにより、これまで困難を強いられた複雑な構造を有する癌関連糖鎖抗原の合成を簡便に行う道が開けた。また、ヒアルロニダーゼを用いる反応では、基質となる糖オキサゾリンモノマー並びにアクセプター糖鎖の合成を検討することができた。
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