研究概要 |
誘電緩和と粘弾性緩和は, ともに, モノマーの運動を反映するが, 誘電緩和とは異なり, 粘弾性緩和には異なるモノマー間の相関は陽には現れない. セグメント運動の相関長 ξ が一定の状況で試料の分子量Mのみを増加させることは相関体積内のモノマーの分子間相関をより弱い分子内相関で置換することに相当するが, この置換によって, 分子間相関を直接反映する誘電緩和は, 粘弾性緩和に対して相対的に加速され, また誘電緩和強度 Δε は減少する [Matsumiya et al, Macromolecules, 44, 4355-4365 (2011)]. 従って, この置換が飽和する臨界分子量 M* 以下の分子量域では, M の増加とともに誘電セグメント緩和時間τε[S]と粘弾性セグメント緩和時間τG[S]の比 r(M) = τε[S]/τG[S] と Δεは減少し, M > M* では, これらの量は M に依存しなくなる. 上記の考察に基づき, B型双極子を有する高分子であるポリブタジエン(PB), ポリ(p-tert-ブチルスチレン)(PtBS) を真空ラインを用いてアニオン合成した. 各高分子について, オリゴマー域からポリマー域までの種々のMを有する試料を得た. これらの試料に対して誘電および粘弾性測定を行ない, τε[S]とτG[S], Δε データを得た. 各同族体試料のr(M)とΔεの分子量依存性を検討し, r(M)とΔεがMに依存しなくなる臨界値M* からセグメント運動の相関長ξを決定した. その結果, PB, PtBSのいずれのξも3nm程度であることが判明した。この結果は, ポリスチレンに対する先行研究 [Matsumiya et al, Macromolecules, 44, 4355-4365 (2011)] の結果と定量的に一致した.
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今後の研究の推進方策 |
B型高分子であるPVME, PCSをそれぞれ7試料, カチオン重合, ラジカル重合にて合成する。これらの試料について, 平成 24 年度と同様の手法で誘電・粘弾性測定を行ない, 得られたデータを解析してセグメント運動の相関長ξを決定する. さらに, PB, PtBS について平成 24年度に得たデータも併せて, 分子内および分子間の運動相関に対する鎖の化学構造の影響を, セグメントのパッキング効率という観点から整理する.
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次年度の研究費の使用計画 |
化学薬品類としては, 溶媒 (ベンゼン, THF, アセトン, メタノール各 200L), モノマー類 (ブタジエン, p-tert-トリメチルシリルスチレン, メチルビニルエーテル, p-クロロスチレン各 1 kg), 寒剤(液体窒素 1000 L, ドライアイス 300 kg) などが必要となるが, 各々の単価から年間総経費は 480 千円と概算される. ガラス器具としては, ガラス製真空フラスコ (60個), ガラス製アンプル (100 個), ガラス管(300本)などが必要となるが, 各々の単価から年間総経費は 450 千円と概算される. 学会発表に必要な 1 年当たりの旅費は, 国内学会(2回)が 100 千円, 海外学会(米国または欧州1回)が 300 千円と概算される. 対応する学会参加登録料は、国内学会(2回)が 20 千円, 海外学会(1回)が 50 千円と概算される.
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