研究概要 |
誘電緩和, 粘弾性緩和は, ともに, モノマーの単位ベクトルの運動を反映するが, 誘電緩和とは異なり, 粘弾性緩和には異なるモノマー間の相関は陽には現れない. セグメント運動の相関長 ξが一定の状況で試料の分子量Mのみを増加させることは相関体積内のモノマーの分子間相関をより弱い分子内相関で置換することに相当するが, この置換によって, 分子間相関を直接反映する誘電緩和は, 粘弾性緩和に対して相対的に加速され, また誘電緩和強度 Δεは減少する. 従って, この置換が飽和する臨界分子量 M* 以下の分子量域では, M の増加とともに誘電セグメント緩和時間τε[S]と粘弾性セグメント緩和時間τG[S]の比 r(M) = τε[S]/τG[S] と Δεは減少し, M > M* では, これらの量は M に依存しなくなる. 上記の考察に基づき, B型双極子を有する高分子であるポリビニルメチルエーテル(PVME), ポリ(p-クロロスチレン) (PCS) を合成した. 各高分子について, オリゴマー域からポリマー域までの種々のMを有する試料を得た. これらの試料に対して誘電および粘弾性測定を行ない, τε[S]とτG[S], Δε データを得た. 各同族体試料のr(M)とΔεの分子量依存性を検討し, r(M)とΔεがMに依存しなくなる臨界値M* からセグメント運動の相関長ξを決定した. その結果は, ポリスチレンに対する先行研究 [Matsumiya et al, Macromolecules, 44, 4355-4365 (2011)] の結果と定量的に一致した.
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今後の研究の推進方策 |
PB/PtBS ブレンド, PCS/PVME ブレンドが相溶系であることや, 各ブレンドの誘電セグメント緩和が大きな双極子を持つ成分 (PB, PCS) に支配されることはすでに解明されている. この点を考慮し, 平成 24, 25 年度に作成した試料を混合して種々の組成のPB/PtBS, PCS/PVME ブレンドを調製し, 誘電および粘弾性測定を行なう. また, 複屈折光学系を自作し, これを既設の歪制御型レオメーターに取り付けて, 流動光学測定も行なう. 粘弾性データと流動光学データを組み合わせて, 系中の PB, PCS 成分の複素剛性率 G* を求め, このG* データから, PB, PCS 成分の粘弾性セグメント緩和時間τG[S]を決定する. また, PB, PCS 成分に支配されたブレンド系の誘電データから, これらの成分の誘電緩和強度Δεと誘電セグメント緩和時間τε[S]を決定する. 得られた τG[S], τε[S], およびΔεデータに対して平成 24, 25年度と同様の解析を行なってブレンド中におけるこれらの成分のセグメント運動の相関長ξを決定し, 平成 24, 25年度に決定したバルク状態でのξと比較して, 相関長に与えるブレンドの効果を検討する.
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