研究課題/領域番号 |
24550139
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
佐藤 絵理子 大阪市立大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30422075)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 濡れ性 / 表面トポグラフィー / 高分子薄膜 / 硬化収縮 / 可逆的光二量化 |
研究概要 |
本研究課題は、高分子薄膜の表面トポグラフィーの増幅制御による物性の可逆変換を目的とする。平成24年度は、架橋が起こる際、van der Waals距離にあった分子や官能基が共有結合距離に近づくことにより体積収縮(硬化収縮)が起こることを利用し、光架橋性高分子薄膜表面への微細な凹凸のパターニングと濡れ性変換について検討した。 効率的に体積収縮させることを目的とし、薄膜状態での光架橋速度、膜厚減少率について詳しく検討した結果、光架橋にともなう高分子薄膜の膜厚変化率はバルク状態でのガラス転移温度に依存し、ガラス転移温度が低いほど膜厚減少率が大きくなることを明らかにした。光架橋により体積収縮する収縮性ポリマー薄膜にフォトマスクを通して光照射を行うと、露光部のみで架橋および膜厚減少が起こり、薄膜表面にフォトマスク由来の凹凸を形成することに成功した。全面露光した薄膜とフォトパターニングした薄膜の光架橋前後の濡れ性変化を比較すると、フォトパターニングした薄膜の方がより大きな濡れ性変化を示した。一方、光架橋が進行しても体積収縮が起こらない非収縮性ポリマーでは、全面露光した方が大きな濡れ性変化を示した。以上より、光架橋に伴う濡れ性変化には化学構造変化によるポリマー薄膜の表面張力変化が寄与し、表面張力の異なる微細な凹凸が形成される場合、より効果的な濡れ性変換を達成できることが明らかとなった。光架橋した薄膜の脱架橋とアニーリングにより膜厚および濡れ性の回復が可能であることも明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は、第一のアプローチとして可逆的な表面トポグラフィー制御と表面物性の可逆変換を目的として進めてきた。まず、光反応性モノマーへのスペーサーの導入などの分子設計、ガラス転移温度を低下させるコモノマーとの共重合による光架橋性ポリマーのガラス転移温度制御により、反応効率の向上および効果的な体積変化を達成した。架橋部位として可逆的な反応部位、例えば可逆的な光二量化部位を用いることにより光照射による架橋と脱架橋を達成し、さらに架橋と脱架橋を体積収縮および体積膨張に反映させることにより表面トポグラフィーの可逆制御および濡れ性の可逆的な制御を達成した。以上のように、当初計画していた目標をクリアしたことから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成25-26年度は、①異方的なパターニングによる濡れの異方性の発現、②熱膨張と収縮を利用する表面トポグラフィー制御、③硬化収縮をプローブとして利用する高分子薄膜界面での運動性評価を中心に研究を進める。①では、まず、収縮性ポリマーおよび非収縮性ポリマーを用いてパターンサイズが濡れ性変化に与える影響を明らかにし、さらに異方的なパターニングの効果についても検討する。②では、架橋ポリマーなどの弾性体表面に弾性率の高い金属薄膜などを蒸着することで、熱膨張率と弾性率の差を利用する自発的な凹凸形成を行い、弾性体のマクロな形状と表面形状の異方性について詳細に検討する。表面形状と表面物性の関係についても明らかにする。③では光架橋に伴う膜厚減少率がポリマーのガラス転移温度に依存することを利用し、膜厚変化率の測定から薄膜界面の運動性評価を行うことを試みる。フリースタンディング薄膜についても検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度はモノマーやポリマーなどの材料合成が高収率で行え、当初予定より順調に進んだため物品費の支出が予定より少なかった。繰り越した予算は、次年度研究計画で特に力を入れる測定用消耗品(蒸着用金ターゲット、AFMカンチレバー、歪みゲージ)等に充てる。平成24年度に参加した国際会議の参加登録料が免除されたことなどによりその他経費の支出が予定より少なかった。繰越した予算は、次年度の学会参加登録費や論文別刷り代などに有効活用する予定である。
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