本年度は、光反応によってアキラル状態からキラリティを誘起する新規添加剤の合成と機能評価を行った。アゾベンゼンのダイマー型化合物で、両方のアゾベンゼンがトランス体である場合(トランス―トランス体)にはアキラルであるが、一方がトランスでもう一方がシスである場合(トランス―シス体)にはキラリティーを有する化合物を合成した。初期状態としては、トランス―トランス体(アキラル)として存在するが、溶液中で436nm光を照射するとトランス-シス体が生成した。また、無偏光下ではトランス―シス体は存在比1:1の一対の鏡像異性体として生成しているが、円偏光下では、一方の鏡像異性体がより多く生成することが、得られた溶液の円二色性スペクトルの測定から明らかとなった。過剰となる鏡像異性体のRとSは、円偏光の左右を変えることで変化した。本化合物は、ねじり力のない状態と右巻きおよび左巻きのねじり力を有する状態の3状態間を光で行き来できる新規な特性を有している。しかし、現在のところ、鏡像異性体過剰率が0.3%程度と小さいことが新規キラル添加剤として使用する上での課題である。 期間全体としては、液晶上のミクロ物体の回転運動に関し、クランクシャフト効果を効率よく発現するためのねじり力変化の大きいキラル添加剤や、[2.2]パラシクロファン構造やアゾベンゼン―コレステロールジメソゲン構造を有する新規キラル添加剤、およびアキラル状態からキラリティを誘起できる全く新しい化合物の開発に成功した。さらに、クランクシャフト効果のメカニズムに関しても、光異性化反応過程での液晶中におけるキラル添加材の配向の違いであるという仮説を実験で確かめることに成功した。
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