研究課題/領域番号 |
24550146
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松本 祥治 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50302534)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 蛍光発光 / 固体発光 / キノキサリン / キノキサリニウム / トリアゾール / アルキル化 / 電子供与性官能基 |
研究概要 |
縮環型キノキサリン化合物として,トリアゾール環を有する化合物,およびイミダゾール環由来のキノキサリニウム塩の合成と光学特性について検討した。 トリアゾール環を有する化合物の合成法として,1,2-ジハロベンゼンとトリアゾールとの金属触媒によるカップリング反応を検討した。その結果,2か所ある反応点のうち1か所でのみ反応が進行した。一方,1-ピロロ-2-ブロモベンゼンとトリアゾールとの反応により,ピロール環とトリアゾール環を有する環化前駆体を得,ハロゲン化と環化反応によりピロロトリアゾキノキサリン化合物を合成することに成功した。この際のトリアゾール環のベンゼン環との結合位置は1位であった。さらに,ピロール部位にアリール基を導入することにも成功した。得られた化合物の吸収・蛍光スペクトル測定の結果,トリアゾール環が導入されることで蛍光波長が他の含窒素複素環が導入されたものよりも短波長化することを明らかにした。ピロール部位にフェニル基を有する化合物では吸収端および蛍光波長の長波長化と,蛍光量子収率の向上が確認された。 アルキル化によるキノキサリニウム塩の合成を行った。アルキル化反応は各種アルキル化剤で良好に進行した。導入したアルキル部位にフェニル基を有する場合,融点が大幅に低下することを明らかにし,結晶構造のスタック形態が変化することで固体物性が変化することが示唆された。アルキル化された場合でも蛍光性は保たれ,同程度の蛍光量子収率が得られることを見出した。さらに,アルキル化により塩構造となることで水にも可溶となり,水溶液中でも蛍光性を示すことを明らかにした。また,アルキル部位に電子供与性官能基を導入した場合,顕著な蛍光消光現象がみられることを明らかにした。この現象は,キノキサリニウム塩と電子供与性化合物を固体で混合しても見られ,固体物性も変化可能であることを示唆する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来合成していた,ピロール環,インドール環,イミダゾール環に加え,トリアゾール環を縮環したキノキサリン化合物の合成に成功している。現在ところトリアゾール環を2つ有する化合物の合成は達成していないが,アニリン構造を端緒としたトリアゾール環の合成や,先にトリアゾール環を連結させた化合物とベンゼン環部位とのカップリング反応の検討から,合成方法の適用限界についての知見を得ている。また,本年度合成されたピロロトリアゾキノキサリン化合物に対する結果は,主骨格への官能基化に関して重要な知見を与えるものである。縮環部位を種々変えることによる系統的な検討から蛍光特性に与える影響について明らかにしており,物性制御の観点からの設計指針が得られている。さらに,アルキル化することでも蛍光性を保つことから,新たな構造や物性付与の可能性も見出されている。 キノキサリニウム塩の融点変化から凝集状態に関する知見を得ている。単結晶構造解析による詳細な検討は達成していないが,凝集構造制御の観点での分子設計指針を得ている。また,キノキサリン構造に加えてキノキサリニウム塩構造でも固体状態で蛍光性を示すことから,これら化合物群が凝集状態における蛍光性物質として普遍的な構造であることが示された。さらに,添加剤による蛍光消光現象について見出し,凝集状態での物性変化を利用した機能性材料としての可能性を示す結果も得ている。キノキサリニウム塩は水へも可溶であったことから,水溶液中での凝集体形成など,より広範な条件での凝集状態物性の利用が可能であることも明らかになった。 キノキサリンおよびキノキサリニウム化合物からペレットを作製して電気伝導性を検討したころ,顕著な電気伝導性は見られなかった。しかしながら,蛍光特性変化の結果から,電気供与性化合物の添加による電気伝導性発現が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
構築可能な基本構造をもつ縮環化合物のさらなる展開として,同一分子中にπ共役系を介してキノキサリン構造を連結した化合物について検討する。このことで,単分子内での物性に劇的な変化を与えるとともに,凝集状態においてもキノキサリン構造同士のスタック様式に大きな変化が期待できる。トリアゾピロロキノキサリンへの置換基導入検討の結果から,高選択的に連結することも可能であると考えられる。また,基本構造の拡張を目指し,キノキサリンのベンゼン環部位の修飾を検討する。チオフェン環のようにさらなる置換基導入が容易な構造を加えることで,基本骨格の物性変化とともに容易な構造変化を期待し,物性制御へと利用する。併せて,ベンゼン環部位修飾による電気伝導性獲得についても挑戦する。 アルキル化されても蛍光特性を保持することが見出されたことから,凝集状態の配列制御の観点からの検討を加える。これまでの知見ではフェニル基によるπスタックの影響が示唆されているが,より強力な相互作用である水素結合を利用した配列制御が可能な化合物の合成と物性検討を行う。すなわち,アルキル側鎖にカルボキシ基を導入することでの配列制御と,外部刺激などによる配列変化に基づいた物性変化について検討する。カルボキシ基はそのアニオン性から電子供与官能基として作用すると考えられ,蛍光消光または蛍光性発現を伴った配列変化が期待される。 これまでに得られた基本構造および官能基化された化合物による物性を理論的に解釈するために,計算化学的手法による測定事実と分子軌道の関連について検討する。さらに,単結晶形成を積極的に行って結晶構造を解明するとともに,結晶構造様式を利用した計算化学的手法による評価を行う。この検討により,単分子から凝集状態までの物性変化が予測できる解析方法を開拓する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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