研究課題/領域番号 |
24550146
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松本 祥治 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50302534)
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キーワード | 蛍光発光 / 固体発光 / キノキサリン / デュアル発光 / 分子内塩 / スルホナート / 熱失活 / πスタック |
研究概要 |
縮環型キノキサリン化合物であるジイミダゾキノキサリンへの選択的なアリール基導入を検討したところ,一置換体とともに二置換体も生成した。一置換ジイミダゾキノキサリンにジハロアレーンをカップリングさせることで,ジイミダゾキノキサリン構造を2つ有するビス化合物を合成した。得られたビス化合物は,ジアリールジイミダゾキノキサリンよりわずかに蛍光波長が長波長化(10nm)したのみであり,ビス化合物の両ジイミダゾキノキサリンには共役形を介した相互作用は少ないことが明らかとなった。一方,ピロロトリアゾロキノキサリンをアレーンで連結したビス化合物では,アリール基を有する化合物より発光が30nm長波長化した。このことから,ピロロトリアゾロキノキサリン構造では相互作用が得られることが明らかになった。さらに,このビス化合物およびアリール基を有する化合物の固体状態での蛍光発光では,ピロロトリアゾロキノキサリンと同様の蛍光波長での発光も示すことを見出し,固体状態で2つの発光波長をもつことを見出した。 分子内塩構造を有するジイミダゾキノキサリニウム化合物の合成を行った。スルトンとジイミダゾキノキサリンを反応させることで,スルホナートを持つ分子内塩化合物を合成した。得られた化合物は,溶液状態において,同程度の長さのアルキル基を有する分子間塩化合物よりも蛍光量子収率が向上した。計算科学的手法により,この原因が分子内塩とすることで側鎖の熱振動による失活が抑えられたためであることを明らかにした。また,分子内塩とすることで融点の増加と固体での蛍光量子収率の低下を示し,固体物性に変化を与えることを見出した。 さらに,分子間塩化合物の固体蛍光特性および結晶構造について測定し,カウンターアニオンがジイミダキノキサリウムπ共役面に挟まってスタック構造を妨げることで,蛍光量子収率の向上に寄与していると考えられる知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビアゾロキノキサリンへの修飾により新規π共役化合物の特性変化について知見を得ている。主骨格のベンゼン環に対する修飾やピロロトリアゾロキノキサリンへのアルキル化による化学修飾は達成していないが,カップリングによるアリール基導入およびビスジアリールキノキサリン化合物合成に成功し,キノキサリンに縮環しているアゾール環の種類によって異なる蛍光特性を示すことを明らかにしている。とくに,ピロロトリアゾロキノキサリン化合物において,凝集状態で特異な2つの蛍光発光(デュアル発光)を示すこと見出し,溶液状態や無置換化合物とは異なる特性を示すことを発見した。この現象は,π共役形を伸張した化合物において,伸張した構造に由来する発光と部分構造(の凝集構造)由来の発光の2つが生起している可能性を秘めており,凝集状態での単一分子を用いての複数の特性発現の可能性を秘めているといえる。 キノキサリニウム塩化合物においても,分子内塩構造とすることで凝集状態の特性を変化させられることを見出している。スルホナートを有する化合物において,分子間塩化合物と比べて凝集状態での蛍光量子収率が低下したが,この現象は電子供与性官能基を側鎖に導入した化合物でも見られた。溶液状態では,スルホナートは塩形成による熱失活軽減に働き,電子供与能として機能しないのと比べると好対照であり,凝集状態における相互作用の知見につながる結果である。 種々の分子間塩化合物の凝集状態の蛍光特性について知見を得,側鎖として導入したアルキル基が与える影響について明らかにしている。さらに,いくつかの化合物について単結晶X線構造解析を行い,凝集状態の光学特性の原因を結晶構造に基づいて解明することに成功している。今後,計算科学的手法による検討により,現象の再現とその発現理由について検討することで,実験と計算化学の相補的な利用に向けた素地を作ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
縮環型キノキサリンを分子内塩構造とすることで溶液および凝集状態で分子間塩構造と異なった特性を示すことから,対アニオンの変化および他の塩との混合による凝集状態の制御について検討する。スルトンを用いたスルホナート導入に加えて,α-ハロ酢酸誘導体でもアルキル化による塩構造構築が可能である結果を得ており,対アニオンが物性に与える影響について明らかにする。カルボン酸を導入することができれば,ペプチド結合によるタンパク質構造への導入や,アミノ酸との混合塩構築によって不斉源を導入することができるため,結晶構造制御および発光円偏向などへの展開を検討する。さらに,アルキル化剤自身に不斉点を導入した化合物についても検討する。以上の検討により,蛍光特性の波長および強度に合わせて不斉という特性付与により,より高度な物性の発現と制御について挑戦する。 併せて,分子内に導入した対アニオンであるカルボシキラートの特性を利用し,添加物による物性制御について検討する。プロトン酸や金属塩添加による溶液および凝集状態での蛍光特性変化を調べるとともに,センサーへの応用を目指す。本塩化合物は補助有機溶媒なしで水に可溶であることから,生態関連のセンサーなどへの利用も期待される。 主骨格であるビアゾロキノキサリンについても,凝集状態における光学特性についてより系統だった検討を加え,化合物の構造が与える影響について明らかにする。蛍光波長および蛍光量子収率の変化を系統だって解析するとともに,単結晶の構造と計算化学的手法を駆使して物性の発現理由を解明する。さらに,凝集状態においてより良好な蛍光特性を発現する化合物の分子設計への知見を強化する。 以上の検討により,縮環型キノキサリン化合物の化学修飾法と,そのことによる溶液および凝集状態の物性変化,さらに凝集状態の物性制御法を開拓することで,本研究のまとめを行う。
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