研究課題/領域番号 |
24550151
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
林 直人 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 准教授 (90281104)
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研究分担者 |
樋口 弘行 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (00165094)
吉野 惇郎 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 助教 (70553353)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 有機発光トランジスタ / 両極性ヘテロ芳香族化合物 / フラン |
研究概要 |
高い発光特性と高度な制御機能を併せ持つ有機発光トランジスタ(Organic Light Emitting Transistor, OLET)の実現を、適切な分子設計とその合成を通じて達成することが、本研究の目的である。一般にOLETは、機能の複合化・集積化という点だけでなく、三端子を有することにより細かな動作制御が可能、原理的に長寿命、また励起子密度が大きいために発光効率が高いといった点で、既存のOLED(Organic Light Emitting Diodes)と比べて発光機能そのものも優れている。分子結晶性薄膜でOLET機能が発現するには、1)材料の発光量子収率が大きく、(2)電子とホールの両方について電極からのキャリアの注入が効率的に行われ、かつ移動度が大きい(両極性もしくはアンバイポーラー性)ことで重要である。この実現のために、本研究ではフラン環とピラジン環が縮環した両極性縮合多環ヘテロ芳香族化合物を新たに合成することとした。ここで、縮合多環構造は電子供与性と受容性に加えて分子間での電子間相互作用の増大に、フラン環の縮環は発光量子収率の増大に寄与することが期待できる。またピラジン環は、電子受容性のさらなる向上を目指して採用した。 本年度はまず、最も基本的なジフロピラジン(1)の合成を検討した。グリシン無水物(2)を原料とし、2,5-ジメトキシ-3,6-ジヒドロピラジン(3)を経る方法を検討したが、何通りかの方法を用いたところ、いずれも途中で計画通りに反応が進まず、1は得られなかった。そこで中央のピラジン部位を、やはり電子受容性を持つキノン部位で置き換えた化合物(4)へと目的化合物を変更して合成を検討したところ、こんどは良好な収率で4が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、本年度はアリール置換ジフロピラジン(1)類の合成と基礎物性測定を行うこととしていた。1の合成は、途中段階において予想外の困難さがつきまとったために、現在までのところ成功していない。例えば原料であるグリシン無水物(2)から2,5-ジメトキシ-3,6-ジヒドロピラジン(3)の合成では、ある場合はMeerwein試薬の取り扱い性が原因となって目的物が得られなかった。そのため、代わりに2,5-ジクロロ-3,6-ジヒドロピラジン(5)を経る方法を考案したが、こんどは4は得られたものの、クロロ基とメチル基の交換後の2,5-ジメトキシ-3,6-ジヨードピラジン(6)の合成がきわめて収率が低く、次の段階へと進めるまでに至っていない。 そこでわれわれは、ピラジン部位を同様に電子受容性であるキノン部位に置き換えた化合物(4)を新たな目的化合物に設定した。そもそも1におけるピラジン部位は電子受容性のさらなる向上のために採用されたものであるから、同様に平面で電子受容性をもつ部位であっても、最終的な研究目的が達成されるために支障はないと考えられる。 4の合成ではまず、アントラキノン誘導体を原料とし、Sandmeyer反応などによりヒドロキシ基を導入し、つづいてその隣の位置にヨード基を導入した。ヒドロキシ基をアセチル化した後に、薗頭カップリングによってアルキニル基を導入し、最後に塩基により脱アセチル化と環化を一気に行うことで、4を良好な収率で得ることに成功した。なお4は、フラン環の縮環向きが同じものと異なるものの両方を別々に合成した。得られた4は、NMR等で構造決定した後、サイクリックボルタンメトリー、UV/Visスペクトル、蛍光スペクトル、単結晶X線構造解析により基礎物性と構造を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
合成に成功した4を用いて、薄膜を調製する。得られた薄膜は、薄膜X線回折や光電子分光測定、原子間力顕微鏡測定によって構造を調べる。それらの知見を基に、OLETデバイスを作成して、その機能を調べる。その際、観測・測定結果と分子構造の違い(とくに、フラン環の縮環向き)に注目して考察を進めたい。 4におけるキノン部位は、それほど強い電子受容性部位とはいえない。そこで、キノン部位をテトラシアノキノジメタン(TCNQ)部位へと変換した化合物(7)を合成し、その性質も検討したい。キノンからTCNQへは一段階で高収率で変換するための方法がすでに確立されており、実際に予備合成にも成功している。 24年度に合成がうまくいかず中断している1の合成も引き続き、進めていきたい。上述したように、6の合成がうまく行っていない現状ではあるが、ヨード化剤としてはまだいくつか検討していないものがあるので、それらの検討からブレークスルーを見出したい。それでもうまくいかない場合は、ヨード化ではなくブロモ化を行い、続く薗頭カップリングの条件を詳細に検討することも視野に入れている。
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次年度の研究費の使用計画 |
4の合成と基礎物性の測定に成功したので、関連研究とあわせて国際学会で発表を行い、関連研究者と意見交換してさらに研究を進展させるために、ある程度の研究費を使用する予定である。また引き続き有機合成を行うために試薬とガラス器具代、X線構造解析のために装置使用料(分担金)、またデバイス調製を行うので、そのための基板代にそれぞれ研究費を充てる。
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