研究課題/領域番号 |
24550154
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
山本 靖 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30335088)
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研究分担者 |
多賀 圭次郎 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30163330)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | リン脂質単分子膜 / 滴下法 / 顕微鏡観察 / 表面張力法 / 同時計測 / 水平型QCM・QCI装置 / イソフルラン / 界面粘性増加 |
研究概要 |
・DPPC(DP)・DMPC(DM)分子膜の観察:26℃において滴下法により作成したそれぞれの分子膜の形態観察を、表面張力法により行なった。DPでは表面圧力値の増加→停滞→再増加が観察され、DMでは緩やかな単調増加が観察された。極限分子占有面積について、DPは圧縮法に比べ3割程度大きかったが、DMは圧縮法と変わらなかった。DP・DMそれぞれの親水基-水分子結合状態や疎水アルキル鎖の構造状態が関連していると考えられる。溶液濃度を1.1mM、溶液滴下時間間隔を1μL/minにすることで、DP・DMどちらも再現性良く膜作成が行なえた。 ・計測装置立ち上げと検知部開発:振動数と抵抗値(粘性)の同時計測が可能な化学計測装置を導入し、微少変化を検出するための低ノイズ化・高感度化を試みた。(1)検知部:金メッキを施したバネ型導線と2重シールド線を使用した。(2)測定槽:2重型恒温循環槽により±0.01℃の温度制御を行なった。(3)測定槽周辺:低熱伝導率のアクリルで覆い、温度制御センサ付伝熱ヒーターにより±0.1℃の温度制御を行なった。平成24年度末時点において、振動数:±0.1Hz、抵抗値:±0.02Ω(計測時間間隔:1s)の低ノイズ化・高感度化(膜面上)を実現した。 ・DP分子膜への麻酔薬の作用効果:DP分子膜への麻酔薬イソフルラン(Iso)の作用効果(濃度依存性)を、既存の振動数・抵抗値の独立計測装置(水平型QCM・QCI測定装置(感度: ±0.5Hz(QCM)、±0.02Ω(QCI)))により行なった。Iso濃度の増加に伴い、QCMでは振動数減少(吸着量増加)を、QCIでは抵抗値増加(膜界面粘性増加)を観測した。Iso濃度5mM近傍において、どちらも一旦平衡値に達した後、不連続な変化を示した。IsoはDP分子膜に吸着すると同時に界面粘性を変化させ、その作用は2段階を経ることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体膜モデル物質であるDPPC(DP)とDMPC(DM)を使用し滴下法により膜作成を行なったところ、圧縮法の場合とは異なる膜形成を示す物質(DP)を見出した。滴下法で作成した伸縮性の富んだ流動性の高い分子膜は、分子膜と麻酔薬との相互作用という生体機能に関連した研究を行なうには有効であると考える。また、膜作成時の条件探索により判明した溶液濃度1.1mM、溶液滴下時間間隔1μL/minという条件は、上述のモデル生体膜を再現性良く作成するのに適しており、麻酔薬との相互作用実験への適用により、再現性の高いデータが得られる可能性が高い。 水晶振動子測定における振動数と抵抗値(粘性)の同時計測はこれまで、水晶振動子上への物質吸着による粘性の無変化に力点が置かれていた。これは、吸着物質について、粘性変化のないナノレベルでの吸着量(重量)の検出が主であったためである。本研究の場合、粘性変化の生じる可能性の高い流動性分子膜を水晶振動子上に修飾しており、粘性変化の検出に力点を置いている。そのような目的の下、検知部の低ノイズ化、測定部周辺の環境制御(特に温度制御)を施すことにより、膜面上において振動数±0.1Hz、抵抗値±0.02Ωの低ノイズ化・高感度化の実現(同時計測)に成功した。これは世界初である。 既存の振動数・抵抗値の独立計測装置(水平型QCM・QCI測定装置)により、DP分子膜にイソフルランが物理吸着すること、またその吸着により、DP分子膜を含む界面の粘性が変化することが分かった。麻酔薬の場合、一般薬物のように特定のレセプター-アクセプターは存在せず、様々な物質が麻酔作用を示すこと、また麻酔作用には閾値が存在すると同時に可逆性があることを考慮すると、イソフルラン吸着による膜界面粘性の変化は、麻酔作用と深く関係があるものと考えられる。 以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度に確立した分子膜作成法に従って水面上に分子膜を作成し、これと麻酔薬との相互作用について、水晶振動子法により調査していく。既存の独立計測装置(水平型QCM・QCI測定装置)で進めるとともに、新規に開発した振動数・抵抗値同時計測装置も併用して進めていく予定である。独立計測装置において、平成25年度は特に、DMPC(DM)と麻酔薬イソフルランとの相互作用を中心に進めていく。DMは膨張膜を水面上に形成することから、DPPC(DP)とは異なったイソフルラン作用を受ける可能性が高い。また、同時計測装置において、反応開始前後または終了前後における振動数・抵抗値のタイムラグに着目した経時的観測も行なう。DPとDMどちらの分子膜についても進めていきたい。 同時計測装置について、平成24年度の期間中に、振動数±0.1Hz、抵抗値±0.02Ωの低ノイズ化・高感度化を実現した。しかしながら、高感度であるが故に、周辺環境(温度、湿度、対流、電源電流)の微妙な変化に鋭敏に影響することも判明した。平成25年度の展開として、周辺環境の精密な制御に力を注いでいく。具体的には、断熱材等を利用して、周辺環境の温度を「[測定温度+0.5℃]±0.1℃以内」に、また湿度を「45%±3%以内」に収まるようにするとともに、測定装置部を区画分離する等、実験室内の対流を受けないように工夫する。また、ノイズカットトランスを導入することによる電源電流の定電流化にも努める。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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