研究課題
【DMPC分子膜への麻酔薬の作用効果】水面上DMPC分子膜への麻酔薬イソフルランの作用効果(濃度依存性)を、既存の振動数・抵抗値の独立計測装置(水平型QCM・QCI測定装置)により行なった。QCMでは、イソフルラン濃度の増加に伴い、振動数減少(吸着量増加)を観測した。イソフルラン濃度4mM近傍において、振動数変化量が一旦平衡値に達した後、不連続な変化を示した(2段階変化)。一方、QCIでは、全測定濃度領域において、抵抗値の変化を観測しなかった。イソフルランはDMPC分子膜に2段階的に吸着するものの、膜を含む界面粘性は変化させない(単純吸着)ことが分かった。前年度に得られたDPPC分子膜へのイソフルラン作用(吸着および粘性変化)とは異なる結果である。DPPCとDMPCとでは、水面上に形成された分子膜の形態が異なることから、水面上分子膜の形態の違いが、イソフルランの作用能力を制御しているものと考えられる。なお、本結果について、現在、論文を投稿中である。【新規化学計測装置の安定化と分子膜/麻酔薬相互作用検出の試み】新規化学計測装置について、麻酔薬作用における反応時間(<8時間)を考慮した長時間安定化を実現するために、周辺環境の精密な制御を含めた、さらなる高安定化を行なった。(1)検知部:水晶振動子固定用O-リングをバイトン製からシリコン製に変更するとともに、2重シールド線を断熱材で覆った。(2)測定槽:2重型恒温循環槽を防熱シートで覆った。(3)測定槽周辺:加湿器により湿度を50%±5%以内に収まるようにした。平成25年度末時点において、振動数:±0.2Hz(>5時間)、抵抗値:±0.02Ω(>5時間)の高安定化を実現した。この条件下において、DPPC分子膜にイソフルラン (6mM)を作用させたところ、振動数の減少および抵抗値の増加の同時検出に成功した。
2: おおむね順調に進展している
既存の振動数・抵抗値の独立計測装置(水平型QCM・QCI測定装置)により、DMPC分子膜にイソフルランは物理吸着するものの、その吸着に伴うDMPC分子膜を含む界面の粘性変化は生じないことが分かった。前年度のDPPC分子膜へのイソフルラン作用では、膜への物理吸着と界面粘性の両方の変化を観測したことから、同じ親水基を有するDMPCとDPPCにもかかわらず、イソフルランの作用の仕方が異なることが分かった。DPPCの場合、伸縮性に富んだ分子膜が形成される一方、DMPCの場合、伸縮性に乏しい膨張性の分子膜が形成されることが分かっている。この膜の物性の違いが、イソフルランの作用効果の違いとなって現れているものと考えられる。麻酔薬には特定の作用部位はないと考えられるが、麻酔薬作用に伴う局所的な膜界面物性変化が麻酔現象と深く関係があるものと考えられる。前年度に引き続き、新規化学計測装置の高感度化・高安定化の取り組みを行なった。麻酔薬は水に溶解しにくいことから、膜への麻酔薬作用における反応時間を最大8時間程度と見込み、今年度は特に、高安定化に焦点を当て、周辺環境の精密な制御に力点を置いた。具体的には、(1)断熱材および防熱シートによる恒温化、(2)温湿度の厳密な制御、(3)実験室内対流防止、である。その結果、膜面上において、振動数:±0.2Hz(>5時間)、抵抗値:±0.02Ω(>5時間)の高安定化(同時計測)を実現した。この測定条件の下、DPPC分子膜にイソフルラン(6mM)を作用させたところ、振動数の減少と抵抗値の増加を観測することができた。この結果は、既存の独立計測装置の結果と類似していたことから、振動数と抵抗値の同時計測の第一段階はクリアできたと考えている。以上のことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
水面上分子膜の物性の違いが麻酔薬の作用能力を制御していることが判明したため、これを確実にするために、引き続き、分子膜と麻酔薬との相互作用実験を水晶振動子法により進めていく。独立計測装置において、平成26年度は特に、DMPEと麻酔薬との相互作用を中心に進めていく。DMPEはこれまで用いてきたDPPC・DMPCの親水基(ホスファチジルコリン:PC)とは異なる親水基(ホスファチジルエタノールアミン:PE)を有している。PCに比べ、PEは分子間で凝集しやすい性質をもつ一方、DPPCのような伸縮性に富んだ膜を形成することも知られている。これから、DPPC・DMPCとは異なった麻酔薬作用能力を有している可能性が高い。麻酔薬は、脂質やタンパク質を問わず、生体膜を構成・保持する「膜界面水和水」に作用すると仮設を立てている。そこで、高分子膜にも適用していく。高分子膜物質として、モデルタンパク質のポリアミノ酸(PBLG)を用いる。水面上での高分子膜作成の条件を調査し、条件が確立次第、水晶振動子法による高分子膜と麻酔薬との相互作用を調べていく。PBLG/水界面には、親水性および疎水性両方の水和構造体(水和水)が存在するため、これら水和水への麻酔薬の作用は、PBLG自体の構造変化を引き起こす可能性がある。同時計測装置について、振動数:±0.2Hz(>5時間)、抵抗値:±0.02Ω(>5時間)の高安定化を実現した一方、それぞれの安定化の要因が異なる(振動数:周辺環境の振動および電磁波的ノイズの低減、抵抗値:機器接続部の密接度および温湿度の恒常化)ことも判明した。両者を満足させる条件を検討し、さらなる高安定化に力を注いでいく。具体的には、検知部回路を空冷するとともに、装置および周辺環境の電源を分離し、さらに計測装置全体を防熱シートで覆うことで、長時間の高安定化に務める。
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