研究課題/領域番号 |
24550158
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
相樂 隆正 長崎大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20192594)
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キーワード | 分光電気化学 / 液膜 / 吸着膜 / 動的電位駆動 / ファラデー相転移 / 蛍光消光 / 単結晶電極 / ビオロゲン |
研究概要 |
1. Au(111)電極表面上でヘキサデカン(HD)の微小液滴が電位によって駆動される系において、電解質水溶液中にドデシル硫酸ナトリウムを溶解すると、ドデシル硫酸イオン(DS)の吸着と二分子膜生成・消滅の二段階相変化が支配する応答が優勢に起こることがわかった。しかし、これら相変化の中間電位領域では、0.4 V以上の範囲に亘って平坦で極めて低い界面微分容量を与えた。これが、ヘミミセル型吸着構造とHDの展開膜の共存を意味しているのか、新しい二成分吸着層が出現したのか検討中であるが、極めて興味深い現象である。 2. アントロイロキシステアリン酸(12-AS)からの蛍光が、Au(111)表面とLB膜中12-AS間の距離の三乗に反比例した消光を受けることを定量的に把握し、検量線として確立した。ヒドロキシステアリン酸のAu(111)電極上L膜積層相中に12-ASの層を組み込んだところ、膜全体が電位の関数としてフロートタイプの吸脱着を起こした。この際の電極上表面法線方向の変位の実測に、上記検量線を直接用いた解析によって成功した。 3. 高配向グラファイト(HOPG)電極上におけるジフェニルビオロゲン(dPhV)の挙動を精査し、酸化体の強い吸着性に由来した大きな履歴効果を伴った緩慢な相変化挙動をモデル化することに成功した。また、HOPG上のジベンジルビオロゲン(dBV)がBrを対アニオンとするときの二段階相変化における中間相の分子配列構造を、実験と計算の両面から提案した。Au(111)電極上においては、dBVがBrやClの存在下で二段階の相変化を示す現象をエレクトロリフレクタンス法を駆使して検討し、電気化学的な分子組織のスイッチングにおける対イオンの重要性を指摘した。 4. Au(111)電極上にマクロなHD溶液を載せたとき、水素発生電位領域に入ると、Au表面が超撥油性を示すことを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1. 水溶液中に置かれた金属電極上の分子膜中にある色素が具体的に金属表面からの距離の関数としてどれだけの消光を示すか、定量的把握は従来から困難な課題であった。四通りの厚みのガラス板上に置いた色素で概算した測定データ(D. Bizzottoらによる)が基準とされてきたが、金属と色素の間が水和した有機分子でない点で問題があっただけでなく、25 nmという大きなフェルスター距離が見積もられていた。これに対し、本研究では分子膜系を実際に用い、より正確な距離のスケール(物差し)にもできる蛍光強度-距離曲線の具体的把握に初めて成功した。フェルスター距離も7.5 nmに縮まり、分子膜の動きのプローブとして感度が大きいことも立証した。本研究ではさらに、実際の動的挙動にこのスケールを適用することに初めて成功した。この手法を洗練すれば、動的挙動を追う手法として世界に提案し、当該分野をリードできる。 2. ビオロゲン分子膜の二次元分子相の電位による変化において、対アニオンがどのような役割を果たしているのかを大局的にも分子レベルにも広く深く見渡せるようになり、その成果を二報の論文として公表できた他、一報が審査中である。アニオンのサイズや濃度によって動的挙動を制御できる実際を具体化した結果は重要であり、この時点で当初の計画よりも深く理解できるようになった点は高く自己評価できる。 3. 水素を発生中の金属表面が極端に強い撥油性を示す発見は、知る限りこれまでになかったものであり、大規模洗浄プロセス等への応用も予見できる大きなインパクトをもたらすものと推察できる。界面化学的にも、小さな気泡が発生する固液界面における表面張力のバランスを解明できる機会が得られたものとしても評価できる結果といえる。 以上の三点に代表されるように、研究は総合的に大きな(一部は意外な)展開を示したと評価できるため、区分を(1)とした。
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今後の研究の推進方策 |
1. 電極上の液膜や単分子膜における法線方向の変位について、動的に得た蛍光画像を、独立なデータを与えるin situエリプソメトリーの結果で補強しつつ把握する手法の一般性を実証することを、最終年度の最重要ターゲットの一つとする。そのためには、局在性が自在に制御できて発光が強い非吸着性色素の選定が鍵となると予見している。 2. ビオロゲンの相転移挙動の様々な側面が明らかになってきたが、速度論、特に相転移フロントの動きをナノ相互作用からマクロなドメイン形成までのスケールで追跡することが次の大きな課題であり、それに着手する機は熟している。この系にも蛍光顕微の手法を併用することが有意義であることが予見できる。そこで、現在、いくつかの標的に絞って合成的準備を進めている蛍光タグ付きビオロゲンを用いた測定を集中的に実施する。 3. 超撥油性は真に、電位制御界面現象としての、ナノ制御-マクロ機能顕現の典型例と言える。ナノレベル・分子レベルの考察から、気体小泡を発生中の金属表面が界面化学的にどのような特徴を持ち、なぜ巨大油滴が球形化しつつも離脱しないのを明らかにし、その機序を記述することを狙う。 4. 当初計画で最大の目標の一つであったAuナノ粒子から成るドームを、電位制御によってのみ用意できる液液界面構造を用いて形成する構想について、一つの実例をデモンストレーションするところまで漕ぎつけたい。そのため、pHに溶解性が依存し、油水界面に局在するbidentateの界面活性剤分子をAuナノ粒子のリンカーとして用い、金電極上に載せたヘキサデカン液滴/電解質水溶液界面に局在させたAu粒子間電子移動を用いた手法を中心に、検討を推進する方針である。
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