研究課題
本研究では,プロトンダイナミクスや強誘電性に加えて,セミキノン配位子あるいは磁性金属イオンによる磁性発現や,分子間でのプロトン移動と電荷移動がカップルして特異な電子状態を生じる電子系の創出を最終目標として,Cp*M ユニット (Cp* = ペンタメチルシクロペンタジエニル)にp-ベンゾセミキノン(HSQ)がπ結合した一次元水素結合型p-ベンゾセミキノン錯体 に着目した.このタイプの錯体では,プロトンの付加,脱離と共に分子内電荷移動を起こし,p-ベンゾキノン-M+ <--> p-ベンゾセミキノン-M2+ <--> ハイドロキノン-M3+の状態を安定に取ることが知られており,水素結合内でのプロトン移動と連動して分子内電荷移動を起こすことが期待される.本研究では,[Cp*Rh(η5-p-HQ-Me4)]X (X = PF6, CF3SO3) を新規に合成した.熱容量測定から,これらの錯体がプロトンの秩序-無秩序転移による二次相転移を起こし,室温相は常誘電相であり,低温相では反強誘電相となることを明らかにした.また,室温相の誘電率は1MHzまでほとんど周波数依存性を示さず,非常に早い応答であることも明らかにした.固体高分解能 13C NMRスペクトルから見積もった交換の速さkは,240-270 Kの温度範囲で10-4-10-6 sであり,非常に高速でプロトン移動を起こしていることを明らかにした.プロトンは非常に高速で運動しているにもかかわらず短距離秩序を示しており,その境界でプロトン移動と分子内電荷移動がカップルしてトポロジー的に生じるハイドロキノンやベンゾキノンのキンク欠損が存在していると考えられる.電場の印加に伴って,このキンク欠損が隣接分子への逐次的なプロトン移動によって移動するプロトニックソリトンによって,強誘電的に配列した領域が増大することで誘電応答を示していると考えられる.本研究は,プロトニックソリトンと分子内電荷移動がカップルした誘電応答の初めての例である.
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (3件) 図書 (1件)
Chemistry - A European Journal
巻: 21 ページ: 印刷中
10.1002/chem.201500796
J. Am. Chem. Soc.
巻: 136 ページ: 7026-7037
10.1021/ja5017014
Inorg. Chem.
巻: 53 ページ: 11710-11720
10.1021/ic5019532