多孔質電極における熱力学的挙動について、今年度は特にファンデアワールス相互作用の影響について調べた。電極内におけるイオンと電極との間においては、相互作用の強さにおいては静電相互作用が支配的である。このため、熱力学的振る舞いにおいて、その強さにおいては静電相互作用よりも一桁小さいファンデアワールス相互作用の影響は小さいと予測することもできる。ところが、モンテカルロ法で熱力学的振る舞いを計算したところ、ファンデアワールス相互作用の存在は熱力学的振る舞いに大きく影響することがわかった。 特に、細孔径の小さい多孔質電極において、印加電圧が低いときのカウンターイオンおよびコイオンの吸着量が大きいことや、電圧と蓄電量の関係における相転移においてヒステレシスが見られる点などは、ファンデアワールス相互作用を考慮しない場合と比べて本質的な違いである。上記のヒステレシスは、よく知られた磁場と磁化率の関係におけるヒステレシスと対比することができる。 また、ファンデアワールス相互作用を含む二成分電解質における熱力学的振る舞いについても、その影響を調べた。前年度までに調べたファンデアワールス相互作用を含まない二成分電解質の特徴は、今年度に研究を行ったファンデアワールス相互作用を含む二成分電解質においても同じように見られた。すなわち、低電圧においては大きいカウンターイオンが電極に支配的に吸着するが、高電圧においては逆に小さいカウンターイオンが電極に支配的に吸着し、これに伴ってキャパシタンスが急激に上昇した。このことは、イオン間の相互作用とイオンと電極の間の相互作用の相対的な強さが、印加電圧の大小によって変化することを示している。
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