研究概要 |
これまで,DMEを還元剤に用いたNOx選択的還元に用いる触媒の開発に取り組み,高性能な触媒の開発を行ってきた。その結果,Ag, Pt, Pd, Rh, Ruの貴金属担持触媒の活性を比較し,Ag/Al2O3が活性,N2選択性の点で最も有効であることを見出した。また,Ag/Al2O3触媒に貴金属(Pd, Pt, Rh, Ru)を助触媒として添加し,触媒活性及びAg担持状態に対する影響を検討した結果,Rhを0.15 wt.%添加した触媒は200℃付近の低温度域でのNO還元活性が向上し,微量のRh添加が有効であることを明らかにした。さらに,Al2O3に対するGa, In, La, Ce の修飾効果を検討し,Ga2O3で修飾したAg/Al2O3-Ga2O3は低温度域活性が更に向上することを示した。 本研究ではAg系触媒をさらに高機能化するため,触媒反応機構の解明,並びに担体の修飾による改良,微量金属成分の添加など調製法の改善によってもたらされた効果と触媒反応機構の関係について検討を行い,従来の三元触媒が適用されなかった希薄燃焼排ガスに応用可能で,現行の尿素SCRよりも安全性,操作性などで遙かに優れた特性をもつ新規の選択的NOx還元触媒システムの開発を目指す方針である。 第一にこの反応に対するAg/Al2O3による触媒反応機構を,従来行ってきたUV-vis測定に加えて種々のキャラクタリゼーション手法を用いて明らかにする。 第二にDMEの修飾による還元材の改良を行う。すなわち,比較的取り扱いが容易で車載が可能な,EtOHなどのアルコール類やディーゼル排ガスに多く含まれるC8, C10の炭化水素やアルデヒド,ケトンなどの化合物をDMEに添加しその複合効果を検討し,より高い性能を発揮できる高機能触媒反応系の開発を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度は,第一にこの反応に対するAg/Al2O3による触媒反応機構を,従来行ってきたUV-vis測定に加えて,XPS, TEM観察などのキャラクタリゼーション手法を用いて明らかにした。その結果,UV-visスペクトル測定により,NO還元反応前の触媒のAgの担持状態はすべて孤立型Ag+イオン(Ag2O)であり,低温度域で高活性の1.75, 2.5 wt.%担持触媒では孤立型Ag+イオンが反応中に凝集および還元されて,Agクラスターとなることが確認され,Agクラスターが低温度域でのDME-SCRの活性種であると推察した。 第二に,3種のアルコール(MeOH, EtOH, i-PrOH)をDMEに添加して用いたときのAg/Al2O3によるNO還元活性を比較すると,MeOHをDMEに添加した効果はMeOHを単独で用いたときと同様,低温度域での活性が向上するとともに,高い活性を示す温度域が拡がることが分かった。一方,EtOH,i-PrOHを添加したときは,それぞれを単独で用いたときと同様にN2選択率が非常に高いこと,高温度側への活性温度域の拡がりが認められたが,150℃, 200℃の低温度域での活性の向上は確認できなかった。 以上一端を示したが,これらの研究結果は,2013年8月にトルコ,イスタンブールで開催されたIUPAC2013,第47回世界化学会議,同年9月に秋田で開催された触媒学会第112回触媒討論会および2014年1月に北海道大学(札幌)で開催された化学工学会北海道支部研究発表会などで発表し,いずれも注目されており第2年度の研究も当初の計画通りに進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は今後も,研究代表者と研究協力者(学部生1名,大学院生2名)の体制で行う。研究の企画,立案,総括を研究代表者が行い,触媒の調製およびキャラクタリゼーションとNOの選択的還元に関する反応の解析は研究協力者が担当し,触媒の高性能化に関する問題については全員の協議のなかで解決する。 26年度は,これまでの2年間で蓄積された,触媒特性に関する知見に基づいて,1) 担体や触媒成分への修飾により高性能化されたAg/Al2O3系触媒の活性点を明らかにした上で,2) DMEとそれに添加する車載可能な第2の還元成分,ならびにディーゼルエンジンの実排ガスに含まれる還元成分を利用した低負荷還元材による選択還元に対して高性能な触媒の開発を目指すとともに,3) ディーゼルエンジンの実排ガスに含まれる共存ガス並びに反応阻害物質 (O2, H2O, SO2) 存在下で高い活性を示す高機能触媒の開発を目指す。 すなわち,触媒の高機能化という観点においては活性点構造であるAgクラスターが,担体や触媒成分の修飾処理によってどの様に生成するかを解明する。また,還元材の改良という点ではDMEに加える第2の還元成分の開発とディーゼルエンジン実排ガスに含まれる還元成分による低負荷還元材の開発を行う。さらに本反応プロセスが,反応阻害物質が共存する実排ガス条件下で十分機能することを目指し触媒の構成成分および調製法,処理方法の改良を行う。 以上の点を考慮した上で,触媒の調製履歴,構造とNOのDME-SCRにおける反応特性の関係の検討することにより,触媒作用機構および活性点構造を考察し,共存ガスを含めた反応ネットワークを総合的に解明し,本反応に優れた特性を有するAg/Al2O3系触媒の高性能化を目指すとともに,その結果を取り纏め,成果の発表を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度の経費のうち,33,430円が執行残となっている。これは25年2月27日以降に購入し3月末までに納品されていた消耗品費(28,430円)と3月26日に支払った触媒討論会参加費(5,000円)に該当し,すべて25年度中に使用済みである。したがって,25年度分の26年度での使用予定はない。 25年度分を26年度に使用する予定はない。
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