研究実績の概要 |
Niimuraら(J. Environ. Radioactivity, 139, 2015, 234-239)による最近の研究では、福島第一原子力発電所によって放出されたセシウム137は、硫酸イオン(SO4,2-)とアンモニアイオン(NH4+)と結合して、土壌中に存在していることが見い出された。得られたその粒状物質は、強酸(H2SO4およびHCl)に可溶で、弱酸(CH3COOH)には可溶ではない。密度汎関数理論(DFT)計算を用いて、硫酸イオンとアンモニアイオンに結合しているCs+イオンで作られたクラスターの構造について調査した。イオン性クラスターおよび中性クラスターの両方について計算した。中性クラスターは、電荷を帯びたクラスターより水に対する溶解度が低いので、より重要である。最も簡単な中性クラスターモデルとして硫酸イオン1個とCs+イオンを2個含んでいるものを用いた。したがって、硫酸イオンN個およびCs+イオン2N個が結合している中性クラスターを得ることができた。 もう一つのタイプの中性クラスターは、Cs+イオン1個と硫酸イオン1個とアンモニウムイオン1個との組み合わせから得られた中性のクラスターである。したがって、このタイプの中性クラスターは、Cs+イオンN個、硫酸イオンN個及びアンモニウムイオンN個と結合することによって得られた。したがって、DFTの計算によると、粒状のCs物質が二つのタイプの中性クラスターから生じ得る可能性を示唆している。すなわち、(セシウム2N個)(硫酸イオンN個)と(セシウムN個)(硫酸イオンN個)(アンモニウムイオンN個)のタイプである。後者のグループのクラスターは、硫酸基及びアンモニウム基の間の水素結合によって安定化されている。 DFT法で計算したこれらのクラスターの分光学的性質は、実験的に研究されているCsの粒状物質の特性評価に有用であると考えられる。
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