環境工学やリサイクルの分野での試料は高含水で多成分系試料である。このような試料を分離なしでin-situ(その場)で迅速に定量できる分析装置の開発が急務となっている。そこで、この研究では対照試料と測定試料のラマンスペクトルを同時に測定できる装置(ダブルビームレーザーラマン装置と名付ける)を作製しバイオマス変換技術の際生成される物質の定量分析を行うことを目標とした。 我々は研究の初年度(平成24年度)において、532 nmを励起光とするラマン分光装置を立ち上げ、ラマンスペクトルを測定できるようにした。次の年度において、励起光のレーザー光を分波し、レーザー光をモニターしながらラマンスペクトルを測定することを可能な装置の立ち上げに成功した。次にこの装置の健全性を確認を行った。ラマン強度はレーザーパワーの変化に対して比例していたが、ラマン強度をレーザーパワーで除することによりその強度比は一定になることがわかった。最終年度にはこの装置を用い、サンプルの濃度を変化させたときラマン強度比を求めた。その結果、濃度の増加に対してラマン強度比は比例することを見いだした。この検量線の再現性を確認するため濃度既知の試料のラマンスペクトルとレーザーパワーを同時測定し、レーザーパワーに対するラマン強度比から濃度を求めたところ、仕込み質量から求めた濃度と良く一致した。以上の結果から、レーザーパワーを測定しながらラマンスペクトルを測定し、レーザーパワーに対する試料のラマン強度比から容易に定量分析が可能になることが明らかにした。 このダブルビームレーザーラマン装置を用いることにより、基準物質の不要なラマン分光法による定量分析を開発することができた。これは、高含水雰囲気下である生体分子やバイオ転換技術によって生成される分子の定量分析に利用可能であると考えられる。
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