研究課題/領域番号 |
24550187
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
川上 徹 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (70273711)
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キーワード | 生体分子 / ペプチド / タンパク質 / 受容体 / チオエステル |
研究概要 |
これまでに,Cys-Proエステル(CPE)構造をカルボキシ末端に有するペプチドが,自発的にペプチドチオエステルへ活性化され,ペプチド縮合法に利用できることを見出している.本研究ではこの自発的活性化法を用いて,蛍光団などの標識基を部位選択的に蛋白質に導入する方法の開発を目的とする.CPEペプチドはそれ自身ではアシル化の反応性を有さないが,系中で自発的にチオエステルへと変換されてアシル化活性を獲得する.したがって,標的蛋白質へ結合するまでの非特異的な反応や分解を抑制できると考えられる.平成24年度には,リガンド結合型自発的活性化ユニットの設計とそれを用いたPTH(1-34) 誘導体を用いる細胞表面上PTH受容体の共有結合による蛍光標識に着手し,蛍光顕微鏡観察によって細胞の受容体発現部位に蛍光が確認できた.しかし,確かに共有結合によって受容体が蛍光修飾できたかどうか確認できなかった. 平成25年度は,標的蛋白質に対して確実に共有結合による修飾を確認するために,モデル蛋白質を用いてその結合配列を有するペプチドチオエステルとの反応を検討したが,依然として確実な共有結合を確認することができなかった. 一方で,前年度に達成した,自発的活性化ユニットの重要性を示す目的のメチル化修飾したヒストンH3(135残基)の化学全合成をまとめて論文などで発表した.本成果は日本化学会欧文誌論文賞を受賞した.また,蛋白質修飾反応の研究過程で見出したCPE活性化ユニットの改良についてまとめて,より効率的なチオエステルへの変換方法として論文などで発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の最も重要な課題は,蛋白質結合部位を有するチオエステルを用いて,共有結合によって確実に蛋白質を修飾できることを確認することであった.チオエステルや自発的活性化ユニットを介して標識とリガンドを導入し,モデル蛋白質を用いて試験管内での標的蛋白質の蛍光標識を行ったが,依然として,確かに共有結合によって標的蛋白質が蛍光修飾できたかどうか確認に至っていない.この早急な確認が必要であり,場合によっては対策を講じる必要がある. 一方で,本研究過程においてCPE活性化ユニットの構造基盤において,より迅速にチオエステルへ変換される改良型CPE活性化ユニットを見出すことができ,論文などで発表することができた.また,CPE自発的活性化ユニットの有用性としてメチル化修飾したヒストンH3(135残基)の化学全合成をまとめて論文などで発表することができた.これらのことは,本研究課題の一方のテーマである構造的基盤による自発的活性化ユニット効率化に成功したことを意味し,一定の成果を達成できたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度はこれまでの結果を受けて,チオエステル自体およびCPE誘導体自発的活性化構造(チオエステル前駆体)を用いて確実に共有結合による蛋白質の修飾法をモデル蛋白質とモデルペプチドを用いて検討する. 1.チオエステルを用いる標的蛋白質のアシル化修飾の検討:チオエステルを用いて,共有結合によって確実に蛋白質を修飾できることを確認する.チオエステルを介して標識とリガンドを導入し,モデル蛋白質を用いて試験管内での蛋白質の標識を行う.この際に,アルキル,フェニルチオエステルなど構造的な検討を行い,チオエステルの活性を調整し,構造的要因を探り,反応条件をより詳細に検討し,蛋白質修飾反応の情報を得る. 2.自発的活性化ユニットを用いるアシル基転移反応の検討:上記1の結果を受けて,チオエステルではなく前駆体の自発的活性化構造を再度デザインする. 3.PTH(1-34) 誘導体を用いる生細胞上PTH受容体の共有結合による蛍光標識の継続:上記の結果を受けて,最終的に生細胞上PTH受容体の共有結合による蛍光標識を遂行する.
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度までに,標的蛋白質に対する確実な共有結合による修飾が確認できていない.また,25年度半ばに当該研究グループに新しく教授が着任し,研究室の改装などが行われ,およそひと月を超えて実験を推進することができなかった.ただし,この間は論文執筆や学会発表,実験計画の再考などに充てることができた. この間の予算が若干残ることとなったが,この分を26年度に使用し,より効率的な研究の展開に充てる.
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