前年度までに、野生型カスパーゼ3の活性が、アポトーシス誘導有機小分子であるPAC-1によって向上し、その機構について速度論実験、シミュレーションによる構造モデリングによって検討した。PAC-1は、前駆体酵素であるプロカスパーゼ3の活性化を促進すると考えられていることから、本年度は、自己活性化がおきないD9A/D29A/D175A変異体カスパーゼ3をプロカスパーゼ3の疑似酵素として、PAC-1の効果を検討した。前年度までに懸案であった変異体タンパク質の発現について、発現条件の最適化に成功し、活性測定に十分な量のタンパク質を得た。そこで、PAC-1の存在下で、変異体カスパーゼ3の活性を検討したところ、やはり活性の向上が見られた。しかし、その効果は、約2倍程度であり、また、野生型酵素と比較して、大量のPAC-1は必要であった。我々は、PAC-1による野生型カスパーゼ3の活性向上はプロトマーインターフェースへの結合であることを提唱している。一方、変異体カスパーゼ3の構造は得られていないが、プロトマー間のインターフェースは柔軟なリンカー部分に塞がれた状態になっていると考えられている。したがって、PAC-1の結合が阻害されているため、野生型と比較して、大量の有機小分子の添加が必要であると考えられる。
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