研究課題/領域番号 |
24550190
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
蒲池 高志 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (40403951)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 酵素化学 |
研究概要 |
ヘムオキシゲナーゼはヘムを分解し、鉄、ビリベルジン、一酸化炭素を生成する酵素である。この反応の中間生成物であるα-メソヒドロキシヘムの生成機構として、これまで3つの経路が提案されている。ヒドロペルオキソ配位子の遠位酸素がα位の炭素を攻撃する協奏的反応である経路は、多くの実験的研究に支持されているが、量子化学計算により、その活性化エネルギーは47.4 kcal/molと報告されており、生理的条件下で進行するには高い。我々はシトクロムP450等の反応活性種として知られるオキソ種が水分子を攻撃し、この水分子のO-H結合が開裂し、酸素とα位の炭素間の結合が生成する反応経路を提案した。この経路について、酵素の全原子を考慮したQM/MM計算により、さらなる理論的解析を行った。 QM/MM計算によって、O-O結合開裂により生じた水分子は、オキソ配位子の酸素原子及び水分子との水素結合によってヘムのα炭素上に固定されることが明らかになった。さらに、α-ヘリックスの立体障害によって、水分子によるヘムのβ位及びδ位への攻撃が妨げられている。これらの効果により位置選択的にα位が酸化されると判明した。鉄原子、オキソ配位子、およびポルフィリンの電子密度はそれぞれ、1.27、0.84、1.05であり、二重項状態が四重項状態より0.02 kcal/mol安定であった。これらのQM/MM計算で得られた結果は、以前報告したモデル計算の結果とほぼ同等であった。C-O結合生成の活性化エネルギーは18 kcal/molとなり水分子が反応に関与することで有効にヘムが酸化されることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
QM/MM(Quantum Mechanical/Molecular Mechanical)法とよばれる量子化学計算の手法を用いることで、数万原子からなる生体分子などの巨大な系についても、充分な精度でシミュレーションを行うことが可能である。本研究はこのQM/MM法を使うことで、酵素の活性中心における反応活性種の反応性や電子状態を検討し、酵素による基質の活性化機構を明らかにすることを目的としている。今年度はこの手法を応用することで、ヘムオキシゲナーゼ、ジオールデヒドラターゼ、B12依存酵素の反応機構を明らかにした。これらの成果は学術誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
一般にシトクロムP450は特定の基質にのみ作用する(基質特異性)。これは酵素の基質結合部位の立体構造が基質分子に結合しやすい形状であることによる。仮に、基質結合部位のアミノ酸を置換することで、自由に立体選択性や位置選択性を制御できれば、天然のP450に無い機能を有する人工酵素の設計が可能となる。申請者の所属する研究室には、創薬の分野でしばしば使われるドッキング・シミュレーションのソフトウェアが導入済みであるので,簡単なシミュレーションであればすぐに実行可能である。必要があれば、我々が最近行ったQM/MM法によるドッキング・シミュレーションを行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の遂行には多数のワークステーションが必要となる。そこで故障した旧型のワークステーションを更新するためパーツを消耗品費で購入する。主にPC用の汎用パーツを使用するので、価格が安定しており、さらに安価である。経験的には90万円で10台分の更新が可能である。Linuxのようなオープンソースソフトウェアを積極的に活用することで、研究費の節約を可能にする。さらに、新しいハードウェアの性能を充分に引き出すためには量子化学計算ソフトウェアのアップグレードが重要となる。また、得られた成果を発表するため国内外の学会に積極的に参加するための旅費が必要である。また研究補助として大学院生に計算機の点検保守と計算機入力をしてもらうため謝金を支払う。
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