研究課題/領域番号 |
24550191
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
増子 隆博 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 技術専門職員 (40457445)
|
キーワード | ビタミンB12 / 触媒反応 / 金属酵素 / バイオインスパイアード / 光増感剤 |
研究概要 |
土壌や地下水には、過去に農薬や洗浄用溶剤として使用された有機ハロゲン化合物が含まれている。これらは自然界では難分解性なため長期間にわたって環境汚染を惹き起こすもととなる。一方、天然に存在するビタミンB12依存性酵素のリダクティブデハロゲナーゼは、テトラクロロエチレンの脱塩素化反応を行なうことが知られている。本研究では、このような有機ハロゲン化合物の分解反応を、水系で穏やかに触媒的に進ませる人工酵素の構築に成功した。活性中心であるビタミンB12の側鎖をアミド結合からエステル結合へと変換させることにより、有機溶媒中での取り扱いが容易になる疎水性ビタミンB12が合成されているが、これをα-へリックスのループ構造を多く含むタンパク質であるヒト血清アルブミン(HSA)の疎水的な場へと取り込むことにより新たな人工酵素を構築した。HSAは血液中に存在し、その疎水場に様々な化合物を取り込むことが可能であり、過去に有機合成した鉄ポルフィリンを取り込ませた例が報告されている。本研究では、このHSAとビタミンB12による人工酵素に光増感剤ルテニウム錯体を組み合わせることで、可視光照射による脱ハロゲン化反応に成功した。光照射によってビタミンB12誘導体の活性中心に超求核性のCo(I)が生じるが、HSAの疎水的な場に固定されているので、溶媒である水から隔離されるため失活のおそれがなく効果的に反応を進めることができる。また、有機ハロゲン化合物は水に難溶性であるので、これもHSAの疎水的な場に取り込まれるため、低濃度でも反応が進行すると期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HSA-ビタミンB12-ルテニウム錯体人工酵素の構築に成功した。HSAの疎水的な場は、ビリルビンやポルフィリンなどを取り込むことが分かっており、構造が似ているビタミンB12誘導体の取り込み挙動を確認したところ、側鎖をプロピルエステルに置換したものが、強固に複合体を形成することが明らかとなっている。これにルテニウム錯体を加えることで、光照射による触媒的な反応の進行に成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
今回使用しているルテニウム錯体は水溶性であるため、ビタミンB12や有機ハロゲン化合物が取り込まれているHSAの疎水的な場とは距離があると考えられる。現時点では、ビタミンB12に対して、ルテニウム錯体を過剰に用いているため、ビタミンB12とルテニウム錯体を近傍に結合させる、もしくは、高価な金属を用いない光増感剤、ローズベンガルなどを系に加えて構築する人工酵素を予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究がおおむね順調に進行したため、必要とする試薬への出費が抑えられた。また、購入予定だった測定機器装置1台を借りることができたため、その出費も抑えることができた。 高価な試薬の使用量を減らした分、最も効率の良い試薬の組み合わせを探るため、種類を増やす予定である。
|