研究課題
基盤研究(C)
エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-M)を用いる糖鎖転移反応を工学的に応用できるレベルへ到達させることを目的に、本年度は、糖鎖受容体必須構造である1,3-ジオール構造由来の小分子型新規シュガーリングタグの創出と反応について検討した。1)1,3-ジオールタグ(新規シュガーリングタグ)として、すでに合成しているカルボキシル基を有するタグに倣い、アミノ基、アジド基を有するタグの創出を行った。アミノ基を有するタグを用い、その使用例を示すことができた。2)側鎖にアミノ基を有するアミノ酸に上記のカルボキシル基を有する1,3-ジオールタグを反応させ、糖鎖転移反応を検討した。その結果、アミノ酸誘導体では反応が進行するものの、ペプチドレベルではリジン誘導体では糖鎖転移生成物を与えるが、オルニチン誘導体では全く反応しないことがわかった。これらの結果から、単にスペーサー構造の違いに帰着させるのではなく、反応場としてある程度の空間を要求していることを示すことができた。従来から、本反応において、反応できると思われる部位での反応が認められないケースがあったが、今回の結果はその理由の1つを提示できたと言える。3)2)のペプチドレベルでの反応を野生型のEndo-Mから市販の改変型酵素に変換することで、収率の向上が図られることがわかった。加えて、オルニチン誘導体でも反応生成物が得られることを明らかにした。いずれの場合にも、糖鎖供与体を対応するオキサゾリン誘導体に代えることで、収率の向上が認められた。4)本研究結果は、本反応の工学的応用に反映できる有用な知見であり、次のステージへ進むことができる。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、ほぼ計画通りに進展している。不十分であった点は、予定していたチオール型シュガーリングタグの創出ができなかったこと、より広い応用例を示すことができなかったことである。ただし、いずれも次のステージでのサブテーマとして引き続き検討を続ける予定である。
今年度に明らかにした結果を受けて、次の各サブテーマを実施する。研究全体の進捗状況を良く把握し、計画の修正を臨機応変に行いながら進めていく。1)今年度未踏に終わったチオール型シュガーリングタグの創出を行う。2)アルキン型シュガーリングタグとして、最も汎用性の高いスペーサー構造を持つ三重結合を導入したシュガーリングタグを設計合成する。今年度合成したアジド型シュガーリングタグと組み合わせ、クリック反応に対応できるようライブラリーに加える。3)ペプチドへの組み込み方の検討を開始する。側鎖にアジド基を有するアミノ酸、あるいは、三重結合を有するアミノ酸を用いたペプチド合成を行う。得られたアジド型あるいはアルキン型ペプチドと対応するシュガーリングタグとをクリック反応させる。得られた修飾ペプチドを用いEnod-Mによる糖鎖転移反応を行う。一方、それぞれのタグに予め糖鎖転移を行い、得られるN-グリカンタグを用いた糖鎖ペプチドの合成を行う。この合成戦略は従来とは全く逆の関係になり、本シュガーリングタグ法の汎用性の拡大に繋がるものと期待できる。4)糖鎖転移反応機構解明の1つとしてN-アセチルグルコサミンの3位水酸基をデオキシ化した誘導体を調製し、Endo-Mを用いる反応を行う。3位水酸基の影響を明確にする。
今年度未執行に終わった設備備品「遠心エバポレーター」について、再度検討を行う。今年度は、同等の機種について比較検討を行う中で、いずれも一長一短あり、購入決断ができずに終わった。次年度は、研究の進展と対比し、再度機種の検討を行う。予算の多くは、試薬類や汎用理化学機器、ガラス器具などの消耗品に充当する。設備備品の整備を見送った場合には、その代替として汎用理化学機器の購入を進める。その他の経費使用は、国内並びに外国旅費を計上している。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
AIP Conf. Proc.
巻: 1518 ページ: 710-713
PEPTIDES 2012: Proceedings of the 32nd European Peptide Symposium,” Eds. by G. Kotos, V. Constantinou-Kokotou, and J. Matsoukas, European Peptide Society
巻: 2013 ページ: 632-633