研究課題/領域番号 |
24550195
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
渡邊 総一郎 東邦大学, 理学部, 准教授 (10287550)
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研究分担者 |
岸本 利彦 東邦大学, 理学部, 准教授 (90339200)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生体機能関連化学 / タンパク質の単離精製 / 光分解 / クリックケミストリー |
研究概要 |
新規なタンパク質の単離精製法を開発するための第一歩として、ビーズ表面を光分解基を含む有機分子で化学修飾し、光反応により先端部分がビーズから脱離することを確認する実験をおこなった。 ビーズ表面を修飾する機能性分子の設計として、光分解基(2-ニトロベンジル誘導体)にビーズ表面への結合部位(アミノ基)を導入した。光分解反応を追跡するために蛍光色素を結合させ、光照射により蛍光色素が放出されるようなモデル化合物を設計した。市販の試薬から4段階の反応により、モデル化合物を合成する経路を確立した。 ビーズは、上記モデル化合物を結合できるように表面が活性エステルとなっている市販の固相担体を利用した。ビーズにモデル化合物を結合させ、表面を十分に洗浄した後、フローサイトメーターにより分析したところ、表面の蛍光量の増大が観測された。これは、蛍光色素のみをビーズと混合した場合や、ビーズの表面を不活性化した後にモデル化合物と反応させた場合に比較して有意に増大しており、ビーズ表面がモデル化合物により修飾されたことが明らかになった。この方法により作成したビーズに365 nmの紫外光を照射したところ、蛍光分子が放出された。これは、フローサイトメーターによる分析をおこない、光照射に伴ってビーズ表面の蛍光量が減少することから確認できた。また、上澄み溶液の紫外可視吸収スペクトル測定により、蛍光分子が放出されていることも確認した。これらの結果より、本研究課題で開発しようとしている技術要素のうち、ビーズ表面を修飾する技術と光照射によりビーズ表面に結合した分子を放出する技術の基礎的知見が得られた。 この他に、ビーズ表面でクリックケミストリーをおこなうための機能性分子の合成法の検討にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度は、ビーズの表面修飾および表面修飾ビーズの性質について検討することを計画しており、具体的には、(1)モデル化合物によるビーズ表面修飾、(2)ビーズ表面でのクリックケミストリー、(3)紫外光照射によるビーズ表面に結合した分子の放出、の3項目について検討することを目標としていた。 これらの検討の前提となる、ビーズ表面修飾用のモデル化合物の合成については、合成経路を確立した。当初は、クリックケミストリーのためのアルキン修飾分子を合成する予定だったが、検討を進めていく中で、ビーズへの結合量や光分解反応の定性的・定量的検証のためには、アルキンの代わりに蛍光色素分子を利用することが適切であることが判明し、分子設計を変更した。 蛍光色素を有効利用することで(1)の検討を進めることが出来、定性的に有効性を示すことができた。このモデル化合物自体を直接(2)の検討に用いることはできないが、合成経路の一部を変更することでアルキン修飾分子を合成可能であると考えられる。この検討は平成25年度におこなう。(3)の検討は、蛍光色素をもつモデル化合物を用いることで進めることができた。 アビジン―ビオチンのペアを標的タンパク質とそのリガンドと見立てたモデル実験(項目(4)とする)も、平成24年度に着手する計画となっていた。ビオチンをアジドで修飾した分子、および、光分解基の末端にアルキンを導入した分子を別途合成し、モデル実験を試みた。検討をおこなう実験系の構築はほぼ完了したが、それを用いてデータを出すのは平成25年度の課題となる。 以上、平成24年度に計画していた4項目((1)-(4))のうち2項目((1)と(3))は目的とする段階までほぼ達成し、残る2項目については見通しを立てることが出来た。後者に関するデータがまだ十分に得られていないことから、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の検討で、定性的には本実験系が目的に沿った形で働くことが明らかとなった。この結果を定量的に示すために、蛍光色素標識分子(モデル化合物)を用いた詳細な実験をおこなう。ビーズ表面修飾においては、モデル化合物の結合量の評価のために、反応しなかったモデル化合物の定量をおこなう。同時にフローサイトメーターによる表面分析も、なるべく定量的な議論ができるように数値化する方法を考慮する。ビーズ表面への結合についても、共有結合か分子間の非特異的な吸着かを区別できるように、注意深くコントロール実験をおこなう。光照射による蛍光色素分子の放出実験でも、上記と同様、放出された蛍光分子の定量や、光照射後のビーズ表面の蛍光量の定量を試みる。 光照射による蛍光色素分子放出反応を詳細に調べるために、モデル化合物単独で溶液中での光照射実験をおこない、光照射条件と原料の分解効率、蛍光色素の放出効率等の関係を定量的に評価する。この結果をビーズ表面での光反応にあてはめることで、光分解効率の最適化を図る。溶液状態と固相表面とでは光分解の効率が異なる可能性があるため、常に両者の結果を比較検討する。 クリックケミストリーの検討を進めるために、平成24年度に合成したモデル化合物の蛍光色素部分をアルキンに代えた機能性分子を合成する。合成経路確立の後、ビーズ表面修飾の検討に入る。一方、クリックケミストリーの効率評価のために、蛍光色素にアジド基を導入した分子の合成方法も検討する。末端をアルキンで修飾したビーズと、アジドを導入した蛍光色素とのクリックケミストリーをおこない、その効率を溶液中に残存する蛍光分子の量、ビーズ表面の蛍光色素量などを測定することで評価する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、直接経費2,200,000円に対し、支出額が1,931,054円となり、268,946円の繰越金が発生した。この主な原因は、応募資料作成時に予定していた分取用HPLCカラムの更新が、採択の際の減額により不可能となり、修理に変更したことによる。修理により、かなり状況が改善するはずとのメーカー担当者の助言により、予算内に収まるように内容を変更した。この際、新品と修理の差額が採択の際の減額を上回り、結果的に繰越金となった。 応募資料作成時に予定していた平成25年度予定額も、採択の段階で減額されているため、この繰越金は、その減額分を補う形で使用する予定である。すなわち、繰越金を加えて利用することで、当初考えていた平成25年度の研究計画を遂行していく。
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