研究課題/領域番号 |
24550200
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
中野 修一 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (70340908)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | DNA二重鎖 / 分子クラウディング / 脂肪酸結合タンパク質 / ゲル / ポリエチレングリコール / 融解温度 |
研究概要 |
細胞骨格フィラメントによる核酸の閉じ込め(confinement)効果を調べるために、繊維状構造体モデルとして用いるアガロースゲルの調製方法を検討した。蛍光標識化したDNA分子をアガロースゲルに閉じ込めるための実験プロトコールを作成し、構造安定性の測定とデータ解析に適したDNA配列を見出した。1%アガロースゲルを用いてDNA二重鎖の熱融解曲線の測定・解析を行った結果、その構造安定性は水溶液中と変わらないことが示された。アガロース濃度を5%にまでに高めても融解温度はほとんど変化せず、アガロースゲルによるconfinement効果は小さいことが見出された(第6回バイオ関連化学シンポジウムにて発表)。 一方で、タンパク質が共存する分子環境がDNAに与える影響を解明するため、エネルギー消費が盛んな細胞で大量発現している脂肪酸結合タンパク質FABPの取得を試みた。大腸菌BL21(DE3)pLysS株とpETベクターによる発現系を用いることでFABPを大量につくり出すことに成功した。大腸菌から取り出したタンパク質はイオン交換カラムとHis-tagカラムを使って精製され、カラム精製で取り除けなかった脂肪酸を除去する方法についても検討を開始した。 これまでの分子クラウディング研究ではPEGが汎用されてきたが、本研究では他の中性溶質による分子クラウディング効果についても調べ、その効果を比較した。核酸の構造変化反応を利用してデータ解析を行った結果、分子量が大きなPEGは核酸と金属イオンの結合性を向上させ、この効果は他の溶質分子よりも大きいことが見出された(雑誌論文として発表)。この実験システムからは従来の分子クラウディング研究ではほとんど考慮されていない静電的相互作用への影響が明らかになり、これはゲルやタンパク質によってもたらされる分子環境効果の化学的側面を解明するための重要な知見になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
繊維状構造体モデルとして用いるアガロースゲルについては、実験に用いるDNA配列の決定と熱融解曲線の測定方法を確立した。さらに、蛍光DNA分子を使うことでゲル中のDNA二重鎖構造の熱安定性を定量的に評価できたことから、平成24年度の研究目的は達成できたものと考えている。タンパク質を使ったモデル実験に関しては、大腸菌を使ったFABPの大量発現とその精製法がほぼ確立され、分子クラウディング実験を実施できるだけの量が得られる目処がついたといえる。また、PEG以外の中性溶質分子を用いた分子クラウディング実験系による評価も行い、従来の分子クラウディング研究では解明できなかった静電的相互作用への影響が明らかになったことは当初の計画を超える成果である。
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今後の研究の推進方策 |
ポリアクリルアミドゲルにDNAを閉じ込めるための実験条件(ゲルの乾燥方法と時間、DNA溶液の浸漬時間など)を決定する。その後、融解曲線の解析に適したDNA配列を選定し、その構造安定性を測定する。アガロースゲルでのデータと比較することで網目サイズの影響を調べ、ゲル繊維によるconfinement環境がDNA相互作用に与える影響を明らかにする。さらに、ゲルを用いる評価システムを、中性溶質を使う実験システムと組み合わせたハイブリッド型実験システムを試みる。この実験に適した溶質分子を選び出すために、様々な種類の溶質物質が核酸の相互作用に与える影響についても調べ、その効果を化学的側面から解明する。 FABPを使った分子クラウディング実験を開始するためには、FABPに結合している脂肪酸を除去する必要がある。そこで、FABPからの脂肪酸の除去法とその効率を評価するための定量化法を構築し、精製度が高いタンパク質の取得を目指す。さらに、市販のタンパク質(ウシ血清アルブミンやリゾチーム)や、人工合成ポリマーを用いて得られるデータと比較することで、高濃度のFABPが共存する分子環境の影響を化学的側面から評価する。タンパク質の表面電荷による影響を解明するために、電荷をもたないペプチド核酸(PNA)を用いたコントロール実験も実施する。さらに、リボザイム(RNA酵素)を使った評価を試み、アニオン性分子や有機溶媒を含む溶液を用い、分子環境が核酸と金属イオンの結合性に与える影響を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、蛍光DNAを使った熱安定性の評価、タンパク質の大量発現とその精製、新規ハイブリッド型実験システムの構築を試みる。これらの実験を円滑に進めるため、研究費の大半は酵素・緩衝溶液・培地・蛍光試薬・各種実験キットなど試薬類の購入費、DNAとRNAの委託合成費、ガラス・プラスチック製器具などの消耗品の購入に使用する。必要に応じて研究費の一部を、リボザイム実験のための小型インキュベータ装置の購入や人件費、論文校閲のための経費に充てることも考えている。当初の想定よりもタンパク質発現実験が順調に進んだため、平成24年度の予算から少額の未使用分が生じた。この未使用額と平成25年度の予算を合わせて上記使途に用いる。
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