研究課題
蛍光基、反応性官能基、クロスリンカー、重原子など有用な官能基をもつ非天然型アミノ酸をタンパク質に導入しタンパク質機能の高度化、有用タンパク質生産、生命現象のメカニズム解明などに利用する方法は生命科学において重要な基盤技術となってきている。ピロリジルtRNA合成酵素(PylRS)-tRNAPylのペアは大腸菌、酵母、ショウジョウバエ、線虫、ヒト細胞等多くのモデル生物において宿主由来アミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)-tRNAと交差反応しない(オルソゴナルな)理想的な非天然型アミノ酸導入システムである。代表者らはPylRSの結晶構造を解明すると共に様々なリジン誘導体をタンパク質に導入できる特異なaaRS/tRNAの組み合わせであることを見い出してきた。現在では導入系の改良、効率化や新規非天然型アミノ酸開発が世界中で進められ、タンパク質の翻訳後修飾、蛍光ラベル化、局在検出、相互作用検出、抗体医薬などに広く利用されるシステムへと進化を遂げている。本研究課題では理研SSBC(現CLST)拡張遺伝暗号システムチームで作製された翻訳終結因子RF1欠損大腸菌株を用いて翻訳後修飾に関わるリジン誘導体、新規の有用性官能基含有非天然型リジン誘導体をタンパク質中の複数カ所に導入することを試み、幾つかのものについては既に成功している。更なる非天然型リジン誘導体の開発、新規バイオオルソゴナル反応の開発、タンパク質への導入の効率化と共に、タンパク質に導入したリジン誘導体を分子プローブとしてケミカルバイオロジー研究や医薬産業分野等への展開を進める予定である。
2: おおむね順調に進展している
新規非天然型リジン誘導体を開発すると共に幾つかの非天然型リジン誘導体についてはタンパク質内への複数導入に成功しており、更なる導入効率化を目指している。現在新規バイオオルソゴナル反応の開発や非天然型リジン誘導体を分子プローブとしたケミカルバイオロジー研究などへ展開を進めている。
PylRS-tRNA(Pyl)は多くの宿主由来のaaRS-tRNAと直交し、様々な非天然型アミノ酸誘導体をタンパク質に導入できる非天然型アミノ酸導入系として優位な特性をもつが、歴史が古く系が最適化されているチロシルtRNA合成酵素(TyrRS)-tRNA(Tyr)と比較してまだまだ発展途上のシステムである。アミノアシル化活性の低さ故に、複数カ所への導入において導入効率、収量の点で問題となることが多い。PylRS構造に最適化された新規非天然型リジン誘導体の設計および合成、新たな非天然型アミノ酸導入用大腸菌株、発現効率の高いプラスミドやアミノアシル化活性の高いPylRS変異体の作製等、まだまだ創意工夫が必要である。
平成26年度に新規の反応性官能基含有非天然型アミノ酸の導入を行うと共に、この非天然型アミノ酸を利用した新規のバイオオルソゴナルな化学反応を発見した。そこで当初の計画を変更し、追試実験、および当化学反応を軸とした蛍光ラベル化、蛍光測定、相互作用分析などの実験を組むことにしたため未使用額が生じた。
このため、この新規バイオオルソゴナル反応を用いたタンパク質に関しては蛍光ラベル化や相互作用解析を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることとした。
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