研究課題/領域番号 |
24550207
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
小野田 雅重 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (30177282)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 電池 / 新型高容量二次電池正極材料 |
研究概要 |
1) LixV3P8O29系(x≦9)の多電子反応は,理想的にはLi9V3P8O29(V3+)⇔Li6V3P8O29(V4+)⇔Li3V3P8O29(V5+)間におけるLi脱離挿入に対応します.今回,7.5<x<9の組成における精密構造およびLiの拡散径路を決定しました.またVイオンの結晶場が中間的結晶場にあることを示し,V原子のイオン性と充放電電位の関係を明らかにしました.さらにPおよびO欠損性を定量的に示しました. 2) 上記V4+⇔V5+の過程におけるエネルギー変換効率および充放電特性等の問題を克服することを目的として,Liが9モルを超えるLixV3P8O29系をソフト化学法により合成し,その精密構造を決定することに成功しました.また,その組成領域で再現性のよい充放電特性が得られることを実証しました. 3) Li9V3P8O29系の充放電特性を改良することを目的として,Li9-xAgxV3P8O29系およびLi9AgxV3P8O29系(0≦x≦1)を開発しました.また関連物質系として,NASICON関連型LixV2P3O12(0≦x≦3),タボライト型LixVPO4F系(0≦x≦2),LixVPO5系(0.9≦x≦1),並びに新規AgxVP2O7系(0.7≦x≦1)を合成し,それらの精密構造,物性,並びに電気化学特性を明らかにしました. 4) 従来型二次電池正極材料LixCoO2系において,0<x<0.5の組成をソフト化学的に合成することに成功し,その構造および磁性を評価しました. 5) Liイオン二次電池正極活物質であり熱電変換材料である多機能性複合結晶CuxV4O11系(2.01≦x≦2.37)の電子相関効果を微視的見地から解明し,Orbach過程に基づくスピンダイナミクスの解析からCuイオンの高速振動を明らかにするとともに,全固体型二次電池への応用を指摘しました.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の研究実施計画は,主としてLixV3P8O29系における組成領域x<9の結晶構造の精密決定,電子状態の解明,並びに充放電性能の高度化でした.当初の計画に無理がなかったこと,および日頃の弛まぬ努力により,研究実績の概要に記載の通り,それらの大半を達成することができ,また次年度以降に計画していた実施計画の一部も前倒しで遂行することができました.さらに出前講義と研究室体験授業を通じて,若い世代に研究成果を発信するように努めました.
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今後の研究の推進方策 |
LixV3P8O29系,NASICON関連型LixV2P3O12系(0≦x≦3),タボライト型LixVPO4F系(0≦x≦2),LixVPO5系(0.9≦x≦1),並びに新規AgxVP2O7系(0.7≦x≦1)の精密結晶構造,電子状態,並びに充放電性能を総括し,次世代二次電池正極材料の電子状態に共通な因子があるかどうかを見極めます.それらの研究と並行して,NASICON型NaxV2P3O12およびその元素置換系等の研究を新たに開始します. 1) 多結晶および単結晶試料の合成:LixVPO4F系およびNASICON系では,未だ単結晶試料の合成方法が確立されていません.種々の方法を試み,良質の単結晶試料を合成します.これと並行して,固相反応法,ソフト化学法あるいは電気化学法を用いて,種々の化学組成を持つ試料合成も行います. 2) 結晶構造の精密解析:種々の組成における結晶構造を詳細に検討するために,単結晶試料を用いた構造解析を行います. 3) a. 電気伝導性:Liイオンの脱離状態における電子伝導性を明らかにし,充放電サイクル特性との相関を追究します.b. 磁気的性質:帯磁率の測定を通して,V-O間の電子混成を評価し,充放電特性との相関解明を試みます.c. 電気化学測定:試料の電気化学特性データを蓄積します. 4) 上記1)~3)の結果に基づき,NMRおよびESRを手法として,微視的見地から電子状態およびダイナミクスを考察します.
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次年度の研究費の使用計画 |
NMR測定の高精度化および迅速化のため,平成24年度に「ネットワークアナライザ」(Agilent E5061B)を購入する予定でしたが,年度途中でNMR測定に特化した「インピーダンスアナライザ一式」(サムウエイT300-1049C)約70万円が新製品として販売されたことを受けて,これを購入しました.年度末に納品されましたが,事務処理上支払いが平成25年4月となりました.また平成24年度に生じた残金の一部は,研究の効率化の観点から現在進めている新しいNMRプローブの製作費に充てます. 平成25年度の研究費は,当初の計画通り,次の消耗品および旅費に充てます. 1) 液体ヘリウム,液体窒素:NMRと帯磁率測定で使用する超伝導磁石の稼動,ESR,各種電気・熱物性の温度変化に使用します. 2) 試薬および各種ガス:試料合成用として,Li2CO3,LiF,MgCO3,NH4H2PO4,V2O5,V,TiO2,NOBF4,Br2,アセトニトリル,水素,窒素,酸素,並びにアルゴンガス,等,また電気化学測定用として,アセチレンブラック,電解液,リチウム金属ホイル,等を購入します. 3) 透明石英管およびガラス器具:真空封入の条件,あるいはソフト化学法で試料を合成する際に用います(適宜,ガラス工作室の支援を受けます). 4) 論文掲載および別刷費.
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