研究課題/領域番号 |
24550210
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
佐藤 徹 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70303865)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 振電相互作用 / フラーレン / ヤーン・テラー効果 / 有機EL / 国際研究者交流 / ベルギー |
研究概要 |
次世代の有機ELの発光機構として期待されている熱活性型遅延蛍光(TADF)は、これまでドナーーアクセプター型の系で研究されてきた。本研究の対象であるC60もTADFを発現する事が以前から知られているが、その機構は不明である。C60のTADFの発現機構には、交換相互作用、スピン-軌道相互作用、振電相互作用が重要な役割を果たしている。本研究課題の目的は、これらの相互作用を十分に考慮して、励起状態の振電構造を決定し、そのdynamicsについて検討し、これら相互作用のTADF における役割を明らかにし、さらに、これらの相互作用を制御して、新規な分子を設計するための指針を構築し、新規分子骨格を設計することである。 初年度は、C60の励起状態における振電相互作用定数やスピン-軌道相互作用を求めるため、C60の電子励起状態の密度汎関数計算を行った。 C60の励起スペクトルにおける振電構造より振電相互作用定数の実験値を求めるため、スペクトルをシミュレートするプログラムの拡張に着手した。本プログラムは、C60のT X h Jahn-Teller系よりも単純なE x e Jahn-Teller系については、既に完成している。E x e Jahn-Teller系であるC70においても、TADFを発現することが実験的に知られている。そこで、振電相互作用定数を求めるべく、スペクトルのシミュレーションを行った。さらに、C70について密度汎関数計算を行い、振電相互作用定数を求めた。得られた振電相互作用定数について、振電相互作用密度解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、対象としていなかったC70についての解析をまず行うことにしたため、当初計画より進捗が遅れている。しかし、C70もC60と同様にTADFを発現することが実験的に知られており、C60とともにその発現機構を解明する事は、最終目標である新規分子骨格を設計することに有用な知見を与えると期待できる。 また、海外研究者との交流の予定についても、日本側からは訪問したが、先方の都合で初年度の訪問は見送った。
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今後の研究の推進方策 |
現在、拡張作業中のプログラムの完成を目指し、C60の励起状態の解析を早急に行う。TADF の発現には、スピン-軌道相互作用の存在が本質的である。C60やC70の励起状態におけるスピン-軌道相互作用の計算を行う。本計算に必要な計算プログラムはベルギーの海外共同研究者(Liviu F. Chibotaru)が開発しているので、共同でこれを行う。励起状態の振電構造を定めるために、次の(2-a)および(2-b)の問題を解決する。(a) product Jahn-Teller効果とスピン-軌道相互作用。C60においては、HOMOは五重縮退したhuであり、LUMOは三重に縮退したt1uである。HOMOからLUMOに1電子励起した電子状態は、四重縮退したgg振動モードならびに五重縮退した2つのhgモードと相互作用する。このような系は、product Jahn-Teller系と呼ばれ、海外共同研究者(Liviu F. Chibotaru)らによって既に解決されている。本研究計画での問題は、ここにスピン-軌道相互作用が存在することである。本問題についても共同で解決を目指す。(b) C60におけるmulti mode Jahn-Teller問題。C60 においては多くの振動モードが、振電相互作用のより電子状態と結合する。このような多モードのJahn-Teller 問題は、これまで弱結合領域で数値的に取り扱われてきた。本申請者のこれまでの研究により、C60 における振電相互作用は従来考えられていた値よりも、小さいことが明らかにされた。このような相互作用領域では、数値計算が困難さを増すため、近似的な解析解が得られれば振電構造を解明することができる。この問題について取り組む。
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次年度の研究費の使用計画 |
スピン-軌道相互作用の計算を行う。本計算に必要な計算プログラムはベルギーの海外共同研究者(Liviu F. Chibotaru)が開発しているので、共同でこれを行う。そのため、海外の共同研究者との相互訪問を行う。 また、振電相互作用定数の解析の為に、計算機を作成し使用する。
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