次世代高効率有機EL 素子の機構として熱活性化遅延蛍光(TADF)注目されている。これは一重項励起状態S1と三重項励起状態T1のエネルギーが接近している場合、T1からS1への熱励起による逆系間交差によりS1へと転換し、S1からの発光を利用するものである。この機構によると電気励起により25%の確率で生成する一重項励起子と75%の確率で生成する三重項励起子の両方を発光に利用することができるため、従来の蛍光やリン光を利用した発光機構による有機EL素子よりも高効率を実現できると期待されている。TADFの発現にはS1とT1の間のエネルギー差が十分に小さいことが必要である。安達らは、このエネルギー差は交換相互作用によるものであり、ドナーアクセプター連結系分子を設計することにより、HOMOとLUMOの重なりを小さくすればエネルギー差を小さくすることができると考え、多くのTADF分子を報告している。しかし、以前より知られているTADF分子にはドナーアクセプター系ではないフラーレンやポルフィリン錯体等が知られている。 本研究ではTADF を示すことが実験的に知られているフラーレンC60 とポルフィリンについて、TADFの発現機構を理論的に解明した。対称性による電気双極子遷移やスピン軌道相互作用の選択則が本質的役割を果たしており、この場合にはT2以上の三重項励起状態からの逆系間交差によるTADFであることが分かった。さらには、エネルギー差を負にすることも可能で、この場合、逆系間交差は熱励起なしに起こると考えられる。これらの新規な発光機構を対称規制TADF(SC-TADF)・逆転一重項-三重項(iST)構造と名付けた。得られた知見をもとにこの機構による発光が期待できる分子の設計指針を提案し、iST構造をもつと期待される新規な骨格を有する分子を設計した。
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