研究課題/領域番号 |
24550214
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
佐々木 哲朗 静岡大学, 電子工学研究所, 特任教授 (20321630)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | テラヘルツ / 結晶 / 有機分子 / 半導体 |
研究概要 |
本研究の目的は、高精度テラヘルツ分光スペクトル測定手法を有機分子結晶の結晶性定量評価に適用することであり、実用的には結晶成長・崩壊過程におけるIn-situモニタに適用できることを示すことである。このため、本年度はまず結晶測定評価室としての真空チェンバを設計・導入して装置の準備を進めた。このチェンバはテラヘルツ波が透過できる窓が採用され、その内部で透過分光測定・反射分光測定が可能であると同時に、更に有機半導体分子の気相成長が可能な構成となっている。尚、チェンバはオプション機能を増加させたため予算を超過したこともあり、設備備品で購入する予定であった真空ポンプは他から流用(兼用)することとした。 結晶中の欠陥量の検出感度評価のためには、まず欠陥の少ない標準となる結晶の準備とその評価が必要であり、できればこれは単結晶が望ましいと考えられる。本年度は新たに単結晶成長とテラヘルツ透過偏光分光スペクトル測定をひとつのセルのままで測定できるシステムを開発し、実際に有機分子であるアスパラギンとアスパラギン酸の単結晶成長を実施し、その低温テラヘルツ偏光分光スペクトル測定、X線回折測定、量子化学計算の結果の相関から、テラヘルツ帯分子振動の帰属解明ができることを証明した。この一連の装置(ハードウェア)と評価方法(ソフトウェア)を統合したシステム全体が、本研究の派生的な成果である。 結晶中の欠陥量の検出感度評価と結晶崩壊過程のIn-situ観測を実施する予定であるが、本年度はその前の単結晶成長準備段階であった。次年度、特に有機半導体材料を対象とすることを想定しつつ、結晶崩壊と結晶成長のIn-situ観測を同時並行に進める所存である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画では想定していなかった大学間の異動があり、本研究において主力となるテラヘルツ分光スペクトル測定装置の再構築などに時間を要したために、若干の遅れが生じている。現在は異動前の稼働状況に戻っているので、この遅れを取り戻したいと考えている。 また、上記の結晶成長セルとそのままテラヘルツ偏光分光スペクトル測定ができ、分子振動帰属解明まで繋がる一連のシステムは、本研究の派生的な成果であり、この面では予想以上の成果もあげていると言えるので、その中間の自己評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度から実施中の結晶成長モニタ用の真空チェンバ内での結晶崩壊In-situモニタリングを継続し、更に同様手法で結晶成長In-situモニタリングを実施する。本年度準備した有機半導体材料であるルブレン、ペンタセン、テトラセンなどの試料を昇華蒸着により成膜し、多結晶の評価からはじめ、次に単結晶成膜層の評価へと進める。基板や、成長条件を詳細に把握する必要がある。このような有機結晶の場合、融点が低く、高温にする必要性はないが、蒸着ソースの加熱や、非蒸着壁面の加熱、結晶温度の最適制御が必要となるために、温度制御を実施する。また、蒸気が測定に与える影響も評価しなければならない。このような改造と、装置中の光路変更などの改良を進めるために光学部品、電気・電子部品を消耗品として予算計上する。また新たな測定対象を探索するため、有機分子試料材料費とプロセスガスを計上する。そして、予算計画の中でも比較的大きな割合を占める液体ヘリウム冷媒は、別途課題があるので、「次年度の研究費の使用計画」の欄に特筆する。 尚、本年度成功した結晶成長とその測定による分子振動帰属解明のためのシステムは、本研究の派生的な成果であるが、次年度はこれを更に洗練化させて実用化を目指す。偏光分光測定に際し、試料を回転させることは作業効率が極めて悪く、テラヘルツ波の偏光方向を回転させる方式を導入することは有効であるので、この方法を探索する。また、量子化学計算から吸収線が対応する分子振動方向を識別する方法や、特定の周波数帯域に密集する吸収線をそれぞれ分離する手法の開発が望まれているので、これを進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
予算執行に大きな影響を与えた問題のひとつが、冷媒としての液体ヘリウムの購入である。本研究の主力装置高精度テラヘルツ分光スペクトル測定装置では、テラヘルツ波の検出にシリコンボロメータを利用しており、これは液体ヘリウム冷媒を必要としている。元々の計画では測定試料冷却にも液体ヘリウムを用いる予定であった。世界的にヘリウムの供給不足が深刻となっており、思い通りには入手できなくなっていて、本年度も想定通りには購入できなかった。ひとつには価格高騰があって支出計画に影響を与えるが、加えてそもそも入手ができなくなってきている。残念ではあるが、試料冷却は液体窒素温度までの低温計測に方針変更した。しかし、検出器は液体ヘリウムの代替はないので、深刻な問題である。 一応、次年度は本年度分進捗を取り返す使用量と価格高騰分を上乗せ計上するが、供給が通常に戻る見通しは薄く、今後状況によってはやむを得ず大きな計画変更が必要かもしれないと考えている。
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